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「それでどうや、他に何か聞いちょきたい事はないんか? 」
帰りの車の中で爺ちゃんは缶コーヒーを啜りながら落ち着いた声で言った。
「何でもええき、今聞けることは今聞いとけよ」
と。
玄は、サボテンの件がすっきりした今となっては、爺ちゃんに取り立てて聞く事が無かったので
「あぁ、そう言えば」
と、思い付きで、それ程重要ではない日頃の疑問を考えもなく口にしてみた。
「お母さんは、トイレに行ったら必ず手え洗えって言うやろ? 」
「まあ、そらそうやろなぁ」
爺ちゃんは、突然の訳の分からない話でも、取り敢えずは真正面から受け止めてくれる。
「でもな、この前、僕のちんちんが痛くなった時があって、その時はお母さん、汚い手ぇで触ったらあかんよって言うねん」
「ははは、そんな事があったんか? そら大変やったなぁ」
じっくり話を聞こうと思ってくれたのか、爺ちゃんは車を途中のコンビニの駐車場に停めて、煙草に火を着けた。
「結局のところ、おちんちんと手ぇはどっちの方が汚いんやろか? 」
自分でも、どうしてこんな話をしているのか分からなかったが、爺ちゃんと話していると、いつもこういう変な話がしたくなるのだ。
「中々におもろい事言うやないか」
と言って爺ちゃんは、ドリンクホルダーの一つに差してある、吸い殻で溢れ返った、円筒形の灰皿の縁に煙草を押し付けて消してから、新しい一本に火を着けた。
「それ聞いて爺ちゃんも思う事があるねんけどな」
「…何? 」
玄は爺ちゃんの横顔をじっと見つめて、
── あぁ、爺ちゃんはみんなから怖いって言われてるけど、優しい顔をしてるなぁと思った。
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