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「悪い人と付き合うたらあかんて、みんな言うわなぁ」
「うん」
「悪い人と付き合うたら、その人に影響されて自分も悪い人になってしまうみたいに言うわなぁ。
まぁ、爺ちゃんも、玄が悪い人と付き合うてたら、止めとけて言うてしまうかもわからんもんなぁ」
─うん
と、自分の言葉に自分で相槌を打つように頷きながら話す。
爺ちゃんの言葉はいつになく歯切れが悪く、よくよく思案しながら話していることが良く分かる。
「人っちゅうんは、付き合う人とか、環境とかで簡単に変わってまうもんやからなぁ」
──ふぅ
っと煙を大きく一吐きして、それからもう一度煙草を深く吸う。
その時間は、実際よりもずっと長く感じられた。
「せやけどな、ここからが大事なとこや、よう聞けよ、玄。
ほいたら、悪い人も良え人と付き合うたら、良え人に変わらなあかんのんちゃうんかとも思うわけや。
悪い人が良え人にならんと、自分だけが一方的に悪い人に変えられてまうような事があるとしたら、それは随分不公平な事やとも思うんや。
けど、やっぱり、悪い人に変えられてまうと言う事は、それは相手のせいやのうて、自分に元々悪い人になる種があったんか、まあ、そこまでの事や無うても、自分が良え人では無かった言う事になるんかも知らんなぁ」
煙草を吸うのを忘れて、爺ちゃんは夢中で話していたので、吸ってもいないのに煙草は半分以下の長さまで短くなってしまっていた。
その煙草をさっきと同じように灰皿で揉み消してから、今度は爺ちゃんは煙草に火は着けなかった。
「まぁ、人によるちゅう事で納得せなしゃあないんやなぁ、こればっかりは。
もしもお前が、悪い人を良え人に変えられるような人になったら、爺ちゃんはそれは凄い事やなあと思うけども、まぁ、そこまでの事は望んでないから、気楽に生きたらかまんけんどな」
と言って
──やっぱり
と思い直したように、煙草を咥えて火を着けた。
「それと、さっきの答えやねんけどなぁ、玄はちんちんの方がキレイやき、トイレに行く前に手え洗った方がええんとちゃうか?
俺のは汚いから、トイレの後で手え洗ろたらええねんけどな。
まぁ、人によるっちゅう事やわな」
と言って、ガハハと大笑いし始めた。
「玄と喋るんはホンマに楽しいなぁ」
そんな風に言われると玄も嬉しくなってしまう。
釣られて一緒に大笑いした。
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