ゼ「雨だねー」ガ「雨ですわ」ゼ「私の庭・・・大丈夫かな」ガ「ふふ。きっと素晴らしいと思われますわ」ゼ「いや、変だと思われるよね」

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ゼ「雨だねー」ガ「雨ですわ」ゼ「私の庭・・・大丈夫かな」ガ「ふふ。きっと素晴らしいと思われますわ」ゼ「いや、変だと思われるよね」

「さ、ご用意が済みましたわ」 にこやかなガーベラ。 くっ。どうして今日に限ってこんなに準備が早いかなー。 いつもなら、早くアジュガ様に会いたいし。準備が早いのは嬉しい事なんだけど。今日、雨なんだよねー。 私「ありがとう」と言いながらゆっくりと鏡の前で自分の姿を眺める・・・ふりをした。 婚約者候補との交流期間!は。もうすぐひと月を数える。 まだ、アジュガ様以外の方は来てない。 臨時の護衛をしてくださっていた時には、毎日会えていたのに。 その次の日から今日まで。2、3日に1回。昼食か、お茶の時間に会えるだけ。 さみしー。 ランチを一緒に食べるのも嬉しいけど。 そういう午後には、たいてい勉強の時間が組まれてて。お話が途中でも誰かが呼びに来る。抵抗むなしく連れていかれる私。くそぉ。 午後のお茶を飲める時のほうが、ずっーといい! だってそういう午後には、たいてい午後中ずっと私の予定は無いから。昼食後直ぐから会って。夕方まで一緒に居れる。 その上、気付いたんだよね! 外にお散歩に出ちゃえば「時間に気付かなかったわー」って言い訳が出来るのだ。暗くなる寸前までアジュガ様とお話できる! アジュガ様は博識で。どんな話をしても楽しい。 雑談は多岐にわたったからね!彼の事なら何でも知ってるくらい極めたよ。 最近では、領地の事を聞くことが増えた。 しょ、将来住む場所だもんね、しっかり知識を蓄えないと! ここのところの楽しい時間を思い出すとにやっとしちゃうなー。 おっと。鏡に映ってるガーベラが、後ろで顔を顰めた。 うん、ごめん。自分でも淑女の顔じゃないなって思った。 慌てて眼を逸らすと・・・。 窓の外はしとしとと降る雨で。 はぁぁ。 はじめて雨だねぇ。アジュガ様と会える日に雨が降るの、はじめて。 約束しちゃったもんなぁ。雨の日になら、って。   ・ 「いくつもの庭園があるのですね」 毎回、お散歩に行きましょうって私が言いだす理由は、とっくにアジュガ様にバレてて。毎回嬉しいと返事をしてくれる。 「代々の王族はそれぞれ、個人の庭を設えること、とされてるから」 まぁ、長年大切に管理されてきた庭もあれば。作り直されて消えちゃった庭も結構多いけど。 作った当人が生きている間だけは、庭名をつけた本人の指示以外で手直しをすることは無く、維持してる。その後は、観賞に堪える庭のみが生き残ってきた。 春の庭、東の庭園。あ、その間に孤影の中庭を歩いたっけ?あの中庭は、第2宮殿のお客からは見ることが出来ないように作られてるから、独りぼっちの中庭と呼ばれてるそう。まぁ、そこで好きなだけ遊んでたんだけどさー、幼い頃の私。 その後から3日前まで。一緒に見て歩いたのは・・・冬の庭でしょ、長生の庭園に石の中庭。 前回の”絵画の庭”は失敗だったなー。 とっても綺麗ではあるんだけど。 ガゼボに作られた額縁のような枠から、眺めるタイプの庭なんだよねー。 時間が来たら、ハイ解散!させられてしまった。 やっぱり散歩と称して、歩き回って逃げないとだめだね。 ・・・正式に婚約したら”星夜の庭園”も一緒に歩きたいなー。名前通り、夜が一番きれいなの・・・夜しか綺麗じゃないともいえるけど・・・。 「これは第32代国王が作られた庭で、絵のように見えるから・・・」 なんて一応、毎回庭の説明はしてきた。流石ですね、と褒められて調子にのって気を抜いて。とうとう避けてた話題を持ってこられてしまった。 「ゼフィ様の庭は何と名づけられているのですか」 私の庭? あー。ワタシノニワネー。 ふふって笑って済ませちゃおうと思ったのに。 しゅん。 って擬音が聞こえそうなほど眉を下げるのやめてほしい。かわいー。 耳たれてるー。わんこの耳ー。見える!うん。 アジュガ様絶対、いつの間にか犬耳生やしてる。 「ええとね。”えん”かな」 「えんの庭?ですか。ゼフィ様がお好きな薄緑や黄緑色の花を植えられているのでしょうか?」 うーん。やっぱりふふっと笑っとく。 ・・・だめか。またもアジュガ様しゅーんとしちゃったわ。 ぜえったい!わざとでしょ! ちっとも淑女らしくない話とかも、この態度で聞きだしちゃうんだもん。 狡い! 内緒にしたい失敗談結構あったのになー。はぁ。 うーん「見たい?」仕方なくそう言う。 「雨の日だったらご案内できると思う」から。 へ?アジュガ様しっぽまで生えた!ぶんぶん振って嬉しそうにしてくれた・・・けど。 「でも、見ても笑っちゃだめよ?」 アジュガ様ったら。今度はにっこりするだけで返事しないのよ! 笑う気なのね! 「笑うなら、連れて行かない」 って言ったのに。 「もう約束しました。雨が降ったら必ずですよ」って微笑まれちゃった。   ・ それで、2日後の交流がすぐに雨だとか。 アジュガ様ってすごいよねー。 私の庭かー。花・・・は無くも無いけど。 がっかりされるかなーって思うと少し足が重い。 とうとう私室を出て。 王族のプライベート空間、いくつか設けられた扉を潜って。 最後の扉のずっと先、長い廊下。角のとこを見ると。 アジュガ様はいつものようにあの入れない境界まで来て待っててくれた。 ご挨拶した途端、彼は。 「私はほんの少しでも、ゼフィ様の嫌がることはしたくありませんよ」 真剣に言ってくれる。真面目な顔もかっこいいねー。 今日は雨。約束した庭にお連れする約束の雨の日。 庭に連れて行くの、嫌がってると思われたのか。ごめーん。 いつもなら、走るようにここまで来てガーベラに怒られてるもんなー。私。 「気を使わせてごめんなさい。ちょっと緊張してるだけよ」 慌てて言い訳る。変な庭って思われるのがちょっと怖いだけだよ? あと・・・。 「王城広場に近い場所なの」にっこり笑って自分から彼の肘に摑まる。しかもぎゅっと。 淑女らしくは無いけど。ガーベラもわかってるのか、何も言わない。 今回の事で。 王宮侍女、その中でも王族付きの侍女が優秀だと私は身をもって知った。彼女たちはどんな時にも感情を表に出さないんだ。それは凄い事だった。 この20日は、アジュガ様は宮廷服で私を迎えに来てくれる。一緒にあちこちの庭へ向かって・・・王城中を歩きまわった。 騎士服の制帽で髪が隠れてた時には、彼の容姿に見とれてたくせに。 侍女に侍従に官吏たち。 アジュガ様の髪を凝視しちゃう人は多かった。 きっと・・・寂しくて嫌な気持ちだよね。 私のために王城にずっと居てくださっているのに。なんだか申し訳ないよ。 歩き回るのはやめようかとも思ったんだけど。 でも彼は、一切気にしてない風で。他の庭も見てみたいと言ってくれてた。
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