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(ほらね?特に過保護って言ったじゃん)?だから。誰が?
兄ちゃんはイベリス様をちらっと見下ろす。
「ううむ。ぐずぐずとした謝罪はしない。口下手でも決めるところは決めるか。
私も参考にしないとな」
・・・お義姉様を振り向いて、にやけるのはやめなさい。
それに。参考にはならないね。兄ちゃんは正反対だもん。
ペラペラ甘い言葉ばっかり言いすぎて、お義姉様からくすくす笑われてるじゃん。
「私たちも、とても反省しています」
ほかの4人も胸に手を当てた。
「そうだな、反省してもらいたい。
妹の気持ちを優先できない男を、私は認める気はないからね。
しかし今回は。
ローダンセが、あおったせいでもあるし。不問としよう」
5人とも神妙な顔でお礼を言った・・・けど、ローダンセ様関係ないよね?
兄ちゃんは何の話をしてるんだろう。
イベリス様に手のひらだけで立つように促して。
「とはいえ。
寄り家に盾突いてでも、という気概がない以上。
ここに今、居ない者は失格なのだけれどね。
家のために引いた彼らは正しいが、それはつまり。妹を守る力が無いと示してしまったのだから。
これで候補者は7人となるだろう」
こうほしゃ。
婚約の候補者?
いや、待って!にいちゃん!
この5人はデビュタントの私が独りぼっちでは可哀想だから、ここに居てくれただけだよ。い、イベリス様はもしかしたらちょっと好意を持ってくださってるのかもしれないけどさ・・・いや、自惚れすぎかな。
とにかく!彼らに迷惑だよ。
・・・でも。
今。そう私が言ったら”そんなことありません”としか答えられないよねぇ・・・。
兄ちゃんが居なくなったら、気にしなくっていいからねって言わなくちゃ。
あぁぁ。
なんか恥ずかしい。ほんとにもう!
家族はみんな。私を可愛いと思ってくれてるけど。それは欲目だもん!
現実というものも見てほしいよ!
ん?
あれ?7人?あとふたりは誰?
「私としては、幼いころから交流させたふたりの方を勧めたいんだけれどね」
にまっと兄ちゃんは5人に笑いかける。
「候補者のひとりに加えていただいたこと感謝申し上げます」イベリス様はやっぱり優しいね。
「申し訳ありませんが、王子殿下のお心にそう結果にはならないかと存じます」にっこりとコリウス様。
あ。だよね。候補者は辞退なさるよね。
「王女殿下とやっと。お話が出来、喜びに打ち震えております。この幸せを手放す気はありません」
「きっと王女殿下を守れると証明いたしましょう。第一王子殿下のように」
「ええそれはもう。真綿でくるむように。世間の風には触れさせず。王子殿下のように」
頷きあう5人。何が言いたいのかよくわからない。
・・・全員辞退って意味だよね?兄ちゃんみたいに妹としてみてるよ?とかいう意味?
「この私にケンカを売るか。君たちにファーストダンスは譲れないな。
さあ。踊ろうか?」
にまっと兄ちゃんは私に向かって手を差し出す。踊る?
デビュタントのファーストダンスを兄ちゃんと?
「それは・・・いくらお兄様でもちょっと・・・」
嫌だ!!
きっぱりとは言えないけど嫌だ!って顔してやる!
デビュタントで踊らないわけにはいかないし。
誰を最初に選ぶのかは、一生ついて回る問題。
兄ちゃんと、だなんて。
誰も踊ってくれなかった。ってずっと思われるじゃないか!
・・・まだ誰も誘ってくれてないけどさー。ううう。
「約束を守ってもらうだけだよ?」
小声の兄ちゃん。約束?
不思議そうな表情は一切表に出さなかったけど。いつもの癖で首を傾げてしまったよ。
「夜会デビューでは、私と最初に踊ると言っただろう?」
すぐに答える兄ちゃん。
「そんなこと、言いましたか?」
静かに言う。けど!
言ってない!そんなこと言うはずない!
「言ったんだよ、6歳の時に」
にっこり兄ちゃんは笑うけど。
そんなの時効でしょ!!
まったく。お義姉様が来てから、こういう態度は減ってたのに。
いつまでも子ども扱いしないでよ!!
でも。約束は約束?
ぐうううぅぅぅ。
仕方なく。兄さまの差し出した手の上に・・・。
手を乗せる寸前のことだった。
ざわり。
ざわり?
なんだろう、と顔を向けると入場の扉が開いていた。
誰か、広間へ入ってきたの?
今頃?
どういう訳か、人込みはすぐに割れて。
そこに立つ人を。真っ正面から見ることができた。
立っているのは、漆黒の髪の少年。
うわぁ、黒髪。懐かしい・・・。
懐かしい?
あ、それは前世の記憶だな。
会場の端と端。
遠いのにどうして少年とわかるのかって?
だって、彼は夜会デビューの伝統的な白い衣装を着てるもの。
あれ?今日は、私以外のデビューは認められないのじゃなかったっけ?
だからみんな、遠巻きに彼を見てるの?
しんとした大広間をゆっくりと見まわして。
少年はすっと美しくこちらへ進み始めた。
一歩。一歩。
彼が進むたびに周りが避けていくみたいで。
彼の姿はずっと確認できた。
どんどん、彼が近付いてくる。
その容姿が・・・はっきりしてくる。
肌の色は浅黒くて。日焼けした野球部のエースみたい。
・・・なんだ?野球部って?
あぁ。
思い出したのは、中学の時の初恋の人だ。
少年は広間をまっすぐ進んできて。
もう表情までわかる距離。
切れ長の目。これも瞳は黒っぽい。高い鼻に薄い唇。
・・・大人びてる。青年とまでは言わないけど、私より年上かも。
冷たい感じの表情は、高校で素敵だなって思った生徒会長に似てる。
眼鏡をくいって人差し指であげる癖。格好良くて憧れていた・・・。
いやだ!なんか恥ずかしい!!
だって。思い出すのは好きだなって思った人ばかり。
会場の人達は全員が遠巻きに。彼の一挙手一投足を見つめてる。
いつのまにか、音楽も止まってる。
みんな彼に注目してる?
わかる!
冷酷イケメン!めっちゃタイプ!すっごく素敵だもん!
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