野生種に近くて放っといても蔓が伸びるらしいんだよね(あんたの”手入れ”は少しも簡単じゃないと思う)

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野生種に近くて放っといても蔓が伸びるらしいんだよね(あんたの”手入れ”は少しも簡単じゃないと思う)

門番の騎士は、食い入るようにアジュガ様の髪を見てる。 うん、責めるつもりはない。つい、どきっと子どもの頃の気持ちを思い出すのは、わかる気がしてるもの。 でもねー。 私はアジュガ様の首にギュッと手を回した。 この人はとっても優しい方なのよ。髪色なんかで判断しないでほしい。 耳に彼のおくれ毛があたる。くすぐったいね。 「扉を♪開けて♪頂戴な!」 明るく元気な声で!門番騎士の気を引く。 子どもの頃のそうしたように! いつだってここに来た時には浮かれてたけど・・・うん、小さいころだけ。 ・・・だったはず。 はっとした門番は、いつもの調子を取り戻してくれた。 「さぁどうぞ、姫様。今はちょうど。あの花が見頃ですよ」 「ありがとう」 ・・・あれ?扉開きましたよー。 アジュガ様、中へ入ってくれないのかな? 顔を見上げる。・・・真っ赤?! 「ぜ、ゼフィ様。あの」って吐息が額にかかる。 なんかいい匂いがして、ふらっとしちゃいそう。 「姫様。はしたないですよ」ガーベラの声。 うん、ぎゅっと抱き着きすぎてた。彼の顔が近くって、どきどきする。 ごめんなさい。 何にも言葉は言えなくて。たださっと、離れる。お父さんに抱えられてる時と同じように、肩のとこにちょっと摑まるだけにした。 アジュガ様は、門番へ頷くような視線をやって。にこりとアーチを潜ってくれた。 ゆっくりと、庭を進む。 ・・・花を見に来たはずなのに、彼の顔から目が離せない。 「ごめんなさい」 やっと、声が出た。 淑女らしくなかったわ。あんなにくっついたりして。 「いえ・・・嬉しかったです」 って瞳はすごく優しい。 「私を・・・守ろうとしてくださったのでしょう?」 そんな立派な理由じゃないな。首を小さく横に振る。ただ私が、悲しむあなたを見たくないだけ。 「本当に美しい庭ですね」 少し広くなった場所に立ち止まるアジュガ様。 この辺りには大きい花をつけるバラが多い。色合いもとりどり。 「でしょう?」 うふふと笑うと笑い返してくれる。でも、おろしてと言っても聞いてはもらえなかった。 この東の庭はそれほど広くないし。テラスわきにしかガーデンテーブルも椅子も置いてない。そこでお茶を飲めるように準備してくれるだろうから・・・。 うん、右回りの小道へ行こうかな。 私の好きな花が咲いてると教えてもらったし。 「右へ、いいですか?」 続く道々に咲いてる薔薇も堪能しながら。「あの小さな橋を」 彼を誘導する。 噴水へと続いてる水路はきらきらと流れてる。 蓋、程度の大きさの石は。小さな欄干の彫刻まで施されて、橋の体裁をしていて。 水路の向こう側は、東の庭でもメインの場所。 「ほう」とアジュガ様が呟く。 大輪の真っ赤なバラ。 彼は少し体勢を変えて、私にもよく見える方向でまた立ち止まってくれた。 きれいだよねー。いつもお母さんの髪色みたいだなーって思う。 たぶん、このバラ園の中でも一番の品種。 この一角は、この品種だけを。ほぼ1年中見られるように工夫されている。今日咲いているのはこの1本だけだけど。 周りには蕾がたくさんあるから、しばらく順に咲いてくれるだろう。 「これほど花弁が大きいバラは初めて見ました」 うん。すこいでしょ。 我が国の初代王妃の名を付けられたこの花は。 王族の求婚にもよく使われる。 見惚れてるアジュガ様に見とれて。 ・・・ちょっと次を紹介するの、躊躇しちゃうね。 彼が、先へ進みましょうか?という目で見てくれるまで待って。 やっと。 「この先へ」と指さす。 小道は、もうここで行き止まりのように見えるんだけど。実は裏へ回るかのように続いてて。 そこには、私の好きな色の花が咲いている。 あぁ、ほんとだね。見ごろ。 この庭を囲ってる塀一面に蔓がつたって。たくさんの数が咲いてる。 黄色味の強い緑色のつる薔薇。 緑色のバラは、遠くからでは咲いているのかも疑われるほど、周りの蔓に埋没した色で。この色が好きだという人はあんまり居ない。 でも私は好きなの。だって。 「まるで私みたいでしょ」 地味で。小さい花で。あと、この花は割と手入れが簡単らしい。 「ええとても。可憐で慎ましやかで。なのにこの存在感はどうでしょう。 ・・・ほっとする美しさ。まるで自分が包まれているように感じる」 え?そんな褒められたら恥ずかしいよ! 私って花みたいでしょ?だなんてイタい事言ったつもりじゃなかったんだよ? 「いや、せっかくの薔薇の花なのに緑色って。茶髪茶目に相対するものがあるよね。地味さ加減が似てるよね、って言いたかったんであって!」 焦って言い訳しちゃうよ! なのに。アジュガ様はむすっと口を閉じる。 「ゼフィ様。 そんな・・・ご自分を卑下するような言い方はなさらないでください。 貴女はとても綺麗です。可愛らしいお顔なのに、ふっと凛とした美しさを見せてくださる。 それに、キャラメル色の髪に。ミルクチョコレート色の瞳は。 口に含むと蕩けてしまいそうだ。甘くて、美味そうで・・・」 な、慰めてくれるんだ、と嬉しいけど。・・・美味そう、って・・・なんかこう。 すっごく恥ずかしいんだけどっ! 私も、後ろに待ってる3人も。 へ?!って固まっちゃった。 それに気付いたアジュガ様は。 「!い、いや、へ、変な意味じゃありません!」 って顔を赤くした。
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