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【挿話・父親】
子ども達が出て行って。
「俺は」
なんだか言い訳がしたくなって。
「ん?」
という、友人として。の返事につい。
「怯え過ぎていたんだな」そう呟いてしまった。
レクトは立ち上がろうかとしていたくせに。
・・・俺のほうを見て座りなおす。
なんだか恥ずかしい気もするけれど。
・・・聞いてほしいと思ったのは俺のほうだ。
「アジュガが、幼いころ。
王都から来ていた商人の子どもと偶然会って・・・ひどく怯えられてな。
あの子のまわりにはずっと、ベルはじめ・・・幼いころから知っている友人しかいなかったから。
アジュガはひどくショックを受けてた。
あいつが・・・俺とふたりだけになった途端泣き出した時。俺はもう、息子のことを知っている人とだけ。あの子がいい子だと知っている人間とだけ仲良くさせてやればいいと思ってしまったんだよ。
二度と傷付くことが無いように。俺のような思いをしないで済むように」
情けない父親なんだな、そう笑うと思っていた友人は。
「わかるよ」と返事をしてくれた。
「出来ることなら、小さなかすり傷すら負わずに生きていってほしいと思う。
その気持ちは私にもわかる。
・・・なんだよ、変な顔するなよ。私にだって、子どもはいるんだからな」
レクトは少し照れたように口を尖らした。
「厳しい国王様は、そんなこと言わないと思ってたよ」
「何とか取り繕ってる国王だってこと、お前もよく知ってるだろ?
・・・私は今に至っても、姉上こそ国王にふさわしいと思う。あんなに強くはなれない」
金髪紅眼。レクトの夜会デビューでは、ゆめ見る令嬢が列をなしたと聞いた。
個人的には、息子の第1王子よりレクトのほうが女性受けが良かったと思う。
初めて会った時だって。あまりに綺麗な顔だったから、人間なのかと疑ったっけ。妖精だと言われたら信じたかもしれない。
・
ひぇ。と出そうな声を何とか呑み込んだ金髪紅眼の綺麗な少年は。
俺の髪の毛をじっと見上げたまま、固まってしまった。
・・・怖いんだな。ごめんね・・・。
初めての旅行で。途中の宿で抜け出して。
・・・父上や俺の髪は嫌われているのだと知った。悲鳴を上げられたり、泣かれたり。
もう馬車や部屋から出ないまま王城に着いて。
この旅の目的だからと、囲まれた庭に入らされた。俺のそばにいるのは警護の騎士がひとりだけ。はじめはびくびくしていたけど。バラがたくさんで。見ているうちに楽しくなってきて・・・。浮かれた俺は、小道の曲がり角で彼とぶつかった。
何か言おうと思って。
でも何を言ってもどうせ怯えられるので。
・・・このまま、いただいたお部屋へ帰ろうかな、と思った時。
「お前、何してるのよ!それはわたくしの弟よ!
喧嘩するならわたくしが相手よ!家来を守ってこそ国王になれるんだから!」
目の前の少年とそっくりな・・・でもドレスを着た・・・少女?が。
がっ!と俺の目の前に立ちふさがった!
・
ふふっと笑う。
「確かにね。思い出すのは勇敢な姉上ばかりだ」
あのあと、レクトが取りなしてくれて。
「仕方ないわね。弟と仲直りしたなら許してやるわ!
お前も今日から私の家来よ!」そう言われた。
いつの事を、俺が思い出しているか。気付いたんだろう。
「悪いと思ってるよ。
俺もまた、お前の髪色にびっくりしてしまった」
レクトはちょっと肩をすくめる。
・・・そっかぁ。
「いや、愚痴って済まない。そうか。そうだよなぁ」
結局、レクトとはあの日以来の友人だ。
姉上の暴走をふたりで止めようと努力した日々。
ちゃんと目の前に。成功例があったというのに。
あの日、俺がすべきだったのは。商人の子と引き離すことではなく、ふたりを話させ、アジュガを知ってもらう事だったのに。
アジュガを守ろうとばかりした俺のせいで。
あの子は”自分は後継ぎにできないと思われている”きっとそうとったんだな。
だから、結婚もしないし、妹の補佐をすると言い張ってきたんだろう。
「王女殿下には感謝する。大事な友人の娘というだけではなく、本人にも借りが出来た」
ちょっと照れながら目を逸らす。
俺の言葉に素直に笑うレクトにムッとする。
「ならば、あの子を頼む。
実は。ある辺境伯家から、そろそろまた王家との縁が欲しいと打診が来ている。正直なところ、きな臭い話だ。
自分の身を守れない娘を差し出すつもりはない。
・・・この話は、俺しか知らない。特にアマルには内緒にしてくれ。あれは弟妹の事となるとタガが外れる」
なんだよ。つまりは、お前にも利のある婚約話だったのか。
最後まで手札を取って置きやがって。
・・・結構、お前はお前で王に向いてると思うぞ。
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