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兄ちゃんは何を怒ってるんだろうね(・・・馬車がつくころにはわかるよ、たぶん)
それから毎日が幸せで!
だって。ほら。
私の公務は最近、続けてずーっと外出なんだもん。護衛がずっと一緒!
護衛の立場のアジュガ様とは、食事はご一緒出来ない。その事だけは不満だけど。
丸一日の公務の時は、結構長い移動時間、一緒の馬車でお話しできたし。
彼の勤務時間が終わってしまえば、ランチや午後のお茶をご一緒できたし。
東のバラ園への入園をまた許可してもらって。ご一緒に散歩して。
また私を抱え上げて運んでくれて。・・・あ、私は散歩してないな。
あの緑色のバラをアジュガ様は好きだと言ってくれて。
「この花は本当にとても綺麗だ」
ってセリフを。私を見つめながら言わないで。なんか恥ずかしいからっ!!
お母さんの年代のご夫人方が集まるお茶会の時にも、アジュガ様は私の護衛として控えてくれることになった。
「初の高位貴族夫人たちとのお茶会。大人と認められる最初の関門ですからね。・・・頼むから護衛に見とれたりしないでね」
ってお母さんから始まる前にくどくど言われたけど。
帰りにはにこにこしてもらえたから、合格だったみたい。
アジュガ様が見てるのに、失敗できないよねー!
私はやればできる子なんだってば!
・
そして今日は。
3年前に出来た、年齢の高い子が居る孤児院への慰問。午前中の少しの時間だけだけど。
・・・ずっと。ずっと行きたかったんだ。
多分、前世の感覚なんだと思うけど。孤児院慰問って聞いた時、偽善。なんて言葉が浮かんできて・・・実は少し竦んでしまってた。
でも。小さな子たちとはじめて触れ合って。可愛くって。
孤児院の運営の話も直接聞いて。収容の人数にはどうしても限度があって。
学力を上げるより、手に職をつけさせることが子ども達のためになるって実感してしまって。まるで常識が違う世界だとわかっていても少し悲しくって。
この数日の慰問で、なんだか気持ちはぐちゃぐちゃ。
でもだからこそ、今日の成果は知りたい。全く役に立ってなかったとしても知りたい。
ノックの音がして。気持ちを切り替える。
部屋まで迎えに来てくれたアジュガ様に心配かけたくないもんね。今日も馬車までエスコ―・・・お?
「おはよう、ゼフィ」
兄ちゃん?
扉の前に居たのは兄ちゃんで。
「今日は、ゼフィと一緒に作り上げた”学校”の視察だろう?私が行かないはずが無いじゃないか」
今日の慰問に付き合うのだという・・・。
にこにこと・・・しっかり私の手を握って。歌でも歌い出しそうにそれを振る兄ちゃん。私をいくつだと思ってるんだ!
くっそぉ!アジュガ様のエスコートで今日もまた馬車まで行けるはずだったのにぃ!
・・・馬車に乗り込んだのは、結局4人。
私とガーベラが隣同士。向かいに並んでアジュガ様と、おまけのにいちゃん。
おまけのくせに「アジュガは乗るな」「ゼフィは私の隣に」「なぜ私がこいつの隣に座らねばならんのだ」とかいろいろ、駄々こねてくれちゃって。
むかっとしたから「第1王子殿下は違う馬車になさいますか」ってわざと言ってやったよ!
「わかった、もう文句は言わない。だからゼフィ、そう呼ぶのはやめてくれ」
ふふん。
何とか馬車は動き出す。
ちらちら見ちゃうけど、アジュガ様は護衛騎士の態度を崩さない。
今日はお喋りできないんだなーってだけで寂しい。怒った振りしたまま、兄ちゃんだけ別の馬車にしてもらえば良かったよ。
兄ちゃんも・・・なんだかちらりとアジュガ様見てるね。
「アジュガお前、よくもやってくれたな」
低い声。冷たい視線。
どうしたんだろね?怒ってるね。
「アジュガ、返事しろ」
「私は本日、ただの護衛なので口をきくなと先ほどご命令を受けたはずですが」
そんなこと言ったの!?
兄ちゃんを睨みつけたのに、しれっと視線を外された。
「質問には答えてもいい」
アジュガ様はちらっと眼を横に流す。・・・その目線も色っぽいねー。
「王子殿下より、質問はされておりませんが」
あ、確かに。
ぐうう「何もかもお前の仕業だろう?」
「はて。何もかもと言われましても。いったい何のことでしょう」
こほ、という小さな咳払いは隣から・・・ガーベラから聞こえて。
ん?と見ると笑いをこらえてる??
むかぁっとしちゃってる兄ちゃんには聞こえなかったみたいだ。
「イベリスは、出世頭だ。伯爵家出身で、後継ぎではないが。すでに騎士爵を与えられている実力者だ。私と変わらぬ年齢ながら、騎士隊長を務めている。あの剣の腕、生真面目さ。無口ではあるが誠実だし。おしゃべりのゼフィとは相性がいいだろう。
何より、あれは浮気の心配が無い。そんな器用さはないからな。
実家が伯爵家というのもポイントは高いんだ。ゼフィには、気取った親戚との付き合いは向かんだろう。私はローダンセの次にあれを推していたんだ。
なのに!
南砦へ行ってしまった。確かにあすこは詰めている騎士の交代時期だったが、あいつは外していたんだ。この時期には、王都勤務にさせていた!砦へ行ったらしばらくは王都へ帰れないからな。
それが・・・なんだよ、運命の出会いって?
なんでもそれで即日結婚した騎士が出て、新婚なのに引き離すのは可哀そうだ、誰か代わりに砦へ行ってくれないかと言われて。
真面目なあれは二つ返事で引き受けてしまった!イベリスお前、自分の結婚はどうする気なんだよ?!せめてあいつが出発する前に気付いていれば・・・。
何とか他に砦へ行ってくれる者を探したけれど・・・それと交代してイベリスが帰ってくるのは、3週間後だ!」
まぁ。
イベリス様を思い出す。オレンジの瞳と髪色。確かに無口だったけど、すごく優しそうだったもんね。
「その新婚の方は喜ばれたでしょうねぇ」
良かったね。と笑うと。
アジュガ様は目を細くして微笑んでくれて。ガーベラはぐふっ、って感じの声を漏らした。ん?
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