に、兄ちゃんにも気付かれたのか(あんたのほうはね)

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に、兄ちゃんにも気付かれたのか(あんたのほうはね)

「イベリス様は、やっぱりとてもいい方なんですねぇ」 私の言葉に兄ちゃんはにやっとする。 「・・・そうか。これはこれでポイントがついたのか」 「それはどうでしょうか。姫様を優先しない程度の思いしかお持ちではなかったのでは?」ガーベラが口を挟む。ほんっとガーベラは兄ちゃんに強気だよね。 「ガーベラ」仕方なく窘める。こういうのを不敬だと怒ったりする兄ちゃんじゃないけどね。 しかし、いきなり何の話かよくわかんないな。 ・・・はぁと息を継いだにいちゃんは。 「コリウスは、書類の不備が見つかって、王城へ来ることが出来ないでいる。 随分前から用意してあった書類だったんだぞ。それを!重箱の隅をつつくような真似しやがってあの官吏め!誰の息がかかっているかちゃんと知っているんだからな!! コリウスはまだまだ若いが、学業、性格ともに評判は上々だ。あれだけの美少年だから、誘惑も多かったはずなのに。そちらの評判は皆無ときてる。恋物語にあこがれて、一生ひとりの人と添い遂げたいと思っているらしい。子どもっぽいところが有りはするが、ゼフィは老成した雰囲気があるからな。足して二で割ればちょうどいいと思った。何より同じ年齢だから話も合うだろう。 公爵家であるとはいえ、3男で。公爵夫妻の目も甘い。結婚相手にもそれほどマナーだ、社交だなどとうるさく言ってはこないと思われる。 ・・・釣り書きだけを考えれば一番いい相手だな。 それなのに! 公爵家当主は、今。他国へ外交に出ている!早速に早便で手紙を送ったが! 公爵のサインと印章が必要な書類の提出までには、ひと月近くかかりそうだ!」 ・・・釣り書き。あー、そゆことか? あ、コリウス様とはお茶会の話をしたんだった。 「お茶会にはお呼びしてもいいんですか?」 「そうか!それがあったか! ・・・いや、交流と取られるからダメなのか・・・? ちょっと確認を取っておく」 隣に座ってるガーベラの肩がふっふっふと揺れて。それにやっと気付いた兄ちゃんの目はどんどん険しくなってる。 「くっ。 ヒペリカムは・・・調整役のつもりでいた。 空気を読むのがうまい男だから。ゼフィが気に入った男が居れば、その距離を近づけたりしてくれるだろうと思って候補に入れた。人を見る目も周りを見る目もある。もしも、ゼフィを侮る婚約者候補しか出ない場合には、自分が。と前に出る野心も少しは持っている男だ。魔力が低く苦労してきた事で育まれたあの優しさを、私は尊いと思う。 彼に関しては・・・今回の事は良かったと言わざるを得ない。 後天的な魔法力を高める魔法薬が、隣国で開発されつつあるそうだ。本人は、今さら魔力の高さなど気にしない、王宮へ上がらせてほしいと言ってくれたのだが。 侯爵から断りが来た。侯爵自ら、執務を夫人に任せて息子を隣国へ連れて行った。ヒペリカムに関しては、国に帰ってくるかどうかも未知数だ。半年以上の薬の治験に立候補したようだ」 ヒペリカム様の千種色の瞳を思い出す。うん、すっごく柔らかい瞳だった。誰の発言にも肯定の言葉を返してたな。 魔法薬の件は本で読んだなー。数年前には構想段階だったのに、治験まで来たなんて凄いね。 「・・・すべて。お前の仕業だな。アジュガ!」 ?仕業?さっきもそんなこと言ってたねー、兄ちゃん。 「まさか」 とだけ言って。にっこり笑うアジュガ様。素敵。 「ふざけるな。 こんなにうまく重なるわけがないだろう。婚約者候補がお前以外だれひとり、交流に来ないなど!!」 交流。そうだった。もう10日近くなるのに、交流してるのはアジュガ様だけだ。他の候補は誰も来てないね。 それを兄ちゃんは話してたのか。いや、ちょっとはそうかなーと思ったけどさ。セリフ長いし、凄い早口だったからなー。止めれなかったの私のせいじゃないよねー。 「こんな、他人を陥れるような男はダメだぞ、ゼフィ! お前だってこんな話を聞けば、思う所があるだろう!」 おもうところ。 「あ、はい。あります」 アジュガ様の表情が。しゅっと暗くなった?どうしたんだろ。 兄ちゃんのほうは嬉しそうだね? 「候補者の名前って、私には秘密だって聞きましたわ、お兄様。 私が居るところで言ってしまってはいけなかったんじゃありませんか?」 兄ちゃんにしては珍しい失敗だよねー。途中で気付いて止めてあげればよかったんだけどねー。ごめんねー、兄ちゃん。 アジュガ様とガーベラはぶはっと吹き出して笑いだす。 「ゼフィィィィィ」 一拍置いて、私を咎める?兄ちゃんの声低いねー。 でも、止めなかった私のせいにするなんて狡いねー。   ・  ・  ・ 帰りの馬車は、すっかり興奮して話し続けてしまった。 私は3年前に専門学校?の提案をしたんだ。 孤児院ではある程度の年齢になると職を見つけて出て行かなくてはならないけど。早く出ようとすると、どうしても肉体労働へ進むことが多くなる。 それを3年きっちり。文字を教え、マナーを教え。侍女や侍従として貴族家でも働けるように育ててはどうだろうと言ってみた。 兄ちゃんは相変わらず、提案に乗ってくれて。適当な私の話を形にしてくれていた。 その最初の子たちが、卒業?して貴族家へ勤めることが決まってた。 直接話が聞けて。みんな、嬉しそうにしてくれてて。嬉しかった。 「うん、この先も見守っていくつもりだから心配するな。良い働き手だと評判になり、実績がつくまで手を抜く気は無いからな」 さすが兄ちゃん。お義姉様さえ絡まなければ優秀なままだねー。 にまにましてる私に。アジュガ様も微笑んでくれてる。 はぁぁ。かっこいいねー。 ん?いま・・・。 勘違いかな? 「お兄様。あの。あの花はなんという花ですか?」 兄ちゃんはん?と外を覗き込む。私はじっとアジュガ様のほうを見る。 パチッ。 う、うぃんく。 うぃ。うぃんく。 兄ちゃんに気付かれないようなタイミングでこそっと。 いやー。どうしよう。話せないのが寂しかったけど。これはこれでなんか。秘密の会話みたいで。ひゃー。 ・・・またガーベラから背を撫でられた。ゆらゆらしちゃってた?? いやこれは。お返しを! ふはっ。 ほんとアジュガ様ってよく吹き出すよねー。 慌てて両手で顔を覆った彼は「可愛い」と呟いた。 !っと。この流れだと私?私の事?いや、調子にのってはいけない。急に何か思い出されただけかもしれない。 「可愛い。ゼフィは本当に可愛い!それは同意してやる。昔からウインクが出来ないんだ。どうやっても両目瞑るんだ」 くつくつと笑う兄ちゃん。 そ、それで私笑われたのか!
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