こんな絵本いつの間に?(あー。にいちゃんが寄付してた)

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こんな絵本いつの間に?(あー。にいちゃんが寄付してた)

ぎゅっとしがみつく私を軽々とエスコートして。アジュガ様は歩き出す。 「王城広場?」 漏れる疑問はひとりごとらしい。 だよねー。通常女性王族の庭は、王宮の周りが多いもん。 でも私の庭は、きっちりと囲われてはいるものの王城広場から近い。 王城区画へ飛び出した形の第3宮殿バルコニーの。斜め下あたり?めんどくせえ説明だな。 「うん・・・」なんて説明しようかなー。いや「見てもらった方が早いかな」 私もひとりごとのようにそう言って。 もっとぎゅーっとしがみついて彼を見上げる。 前から歩いてきた侍女が青くなって立ち止まったから。 そんな女性見ないでねー、アジュガ様。私だけ見て頂戴。 何か、を怖いって思う気持ちは仕方ないと思うけど。中には蔑むような眼で黒髪を見てくる人もいるんだよ。この髪色の人は悪い人だと思い込んでる阿呆がいる。 「ねーぇ、昨日も雨だったでしょ?何をしてたの?」甘えたようにアジュガ様に話しかけ、侍女は無視。 私だけ見て。 どこまで私の考えに気付いてしまってるのか、アジュガ様は本当に私だけしか見えないような態度でいてくれる。優しい人だよね。 これはああいう態度をしてしまう全員なんだけど。2度は見逃してる。 3度目があれば、降格。または失職。少し厳しいかもしれないけど、王城にはいろいろな国の方が来るはずなんだもの。自分の勝手な思い込みで失礼を働く人を雇う訳にはいかないと思う。これは直接、お父さんにもお願いしてる。 最終的な判断は事務長や侍女長やになるけどね。 「午前中は書類の整理をして過ごしました」 私を見下ろすアジュガ様の瞳は柔らかい。 彼は領地の仕事をもう請け負ってる。こちらに居てもできることは、しているそう。 執務机に座ってるアジュガ様。少し眉根を寄せて書類を読む。羽根ペンでサイン。・・・想像するだけでよだれが出そうだよ。 「午後は、図書室へ行ってきました。いつでも入室していいと許可を頂いたので、すごく助かってます。辞書類や過去の天候、災害の資料もかなり揃ってる。 王城の図書室は素晴らしいですね」 そうなのよ。「気に入ってもらえたのなら嬉しいわ。次回は一緒に行きましょう?」 アジュガ様は読書も好きで。幼い頃には冒険譚を読んでたんだって。 今一番好きなのは旅行記で。読みながら、各地の事を詳しく調べるのも好きなんだという「旅をした気分になれますから」 わかる気はする。でも実は私、旅行記はあんまり好きじゃない。王家の事情から引きこもり状態だったもの。旅できる人が羨ましくなりそうで、読んでこなかった。 ローダンセ様ほど、本の話が合う人は珍しいんだね。 それでも、読書の事でアジュガ様と話せるのは嬉しい。 「ええ、ぜひ。 でも、あすこではお話出来ませんよ。静かにしないとなりませんからね」って私に身を寄せて。少し小さな声で囁くアジュガ様。そ、その色気はどうやって発するんでしょう?! お返しが出来て、あなたもどきどきしてくれたらいいのに。 どんどんと目的地に近付いて。やっぱりやめようかなとちょっと思ってしまう。上から見るだけにしてしまえばいいじゃない?庭だけなら、上の階へ行けば覗けるはず。 ・・・ううん、大丈夫、話は通してるし。 ローダンセ様から借りた本。おそらく後編は”あの絵本”のお話。 つい、歩みが遅くなったらしくって。 アジュガ様は立ち止まる。 きっと私の不安に気付いてくれてる。 でも私たちはそれぞれ相手に何か言う前に、子ども達に見つかった。 廊下と部屋の間に設けた窓が開いて。そこには子ども達が鈴なりで。 「あー姫様だー」「昨日ぶりー」「ご本読んでー」「このひとだれー」「せんせー、姫様また来たよー」「雨だもん、やったー」 ・・・前世を思い出しちゃった私は。子を持つ人の働く環境が納得いかなかった。 それで、王城内に託児所をつくった。 お遊戯室に保育室、お昼寝のためのお部屋に。バスルーム。音楽室と名付けた部屋には楽器をたくさんに。すぐ外には遊具をたくさんに。 お遊戯室と保育室には、廊下側から覗ける窓をたくさんつけてもらった。仕事中にちょっと遠回りしてこの前を通れば、子どもの様子を見ていけるじゃん? 名称は保育園にした。だから、庭の名前はえんのにわで園庭(えんてい)。 私の庭はここに作ると言い張って。ブランコや滑り台作っちゃったんだよねー。おかげで私の庭には専用大工が居て、専用庭師は居ない。 子ども達の情操教育に使う花壇があるだけだもんなー。トマトとか、キュウリとかに似てる植物を育ててる。花も咲くから花壇だ!と言い張っとく! その辺の説明をアジュガ様にしながら、園の入口へ向かう。 広いお部屋の向こうに広い園庭。 昨日、シッターの方たちや子どもたちと話したから。みんなそこまでびっくりはしていない。 子ども達の中には、やっぱりアジュガ様の髪を怖がる様子の子が居たんだけど。 妹を持つ彼は。 うんもう、凄い妹の面倒見てる人だって知ってるもんね。 子どもの扱いに不安なんか無かった。すぐに子どもたちと仲良くなってしまった。 「この絵本の人だー」「やっぱりひめさまとけっこんするのー?」「姫さまのこと好き?」 お、女の子ってやっぱり女の子だよねー。それを今聞かれると恥ずかしいんだけどっ!「うん大好きだよ」ってにっこりするのやめてくださいぃぃ。 ”この絵本”はアジュガ様が。私も彼も真っ赤になっちゃったよ。 「疲れたでしょ? 子ども達の相手をしてくれてありがとう」 お昼寝の時間だ、と子ども達は連れていかれた。 侍女達は残して、園庭へ出るアプローチへふたりで。この”保育園”の中は見晴らしがいい。子どもがどこに居ても見えるように作ってある。 「ここが、私の庭」 私の庭なんだけど。雨の日以外、私。入っちゃダメなんだよー。私の庭なんだけど! 子どもと一緒に遊んじゃってから禁止にされてしまった・・・。 いやでもさ、ぶらんことかいくつになってもちょっとだけ遊んじゃおうかなって思うもんでしょ?ぴょんと飛び降りるのとかを教えちゃって、余計に叱られたっけ。 お花も無い。景観がいいわけじゃない。 がっかりされちゃったかなぁ、と隣を見上げる。 「本当にゼフィ様には困ります」彼はゆっくりと雨に煙る園庭を見回す。 「これ以上ないくらいに好きだと思っているのに。貴女を知るたびにもっと好きになる」 それは・・・雨が降ってますね、くらいの普通の口調だったから。聞き間違えたのかもしれないと思った。
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