この絵本誰が描いたんだろね?強面魔王様の哀し気な表情!神絵!(魔なの?神なの?)

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この絵本誰が描いたんだろね?強面魔王様の哀し気な表情!神絵!(魔なの?神なの?)

首を傾げてアジュガ様の顔を見上げてると。 私の視線に気付いた彼はこちらを向いた。 ・・・はっと口元を押さえてる。耳が赤くなっていく? 「いや、その。今のは! 意識せずに漏れたというか。・・・うわぁ。なんだかすごく恥ずかしい」 って。こっちを見てくれない。 え?聞き間違いじゃない?? 本当にそう言ってくれたんだと思うと・・・私も恥ずかしい。 何にも言えなくなっちゃったよ。 ・・・しばらくすると。アジュガ様、調子を取り戻したのか。 「とても、素敵な庭です。見せてくださってありがとう」と言ってくれる。 嬉しいなぁ。普通の庭じゃないとは知ってるから。やっぱり見てもらうの緊張はしてたもん。・・・嬉しい。 すっかり、癖になっちゃって。私ぎゅーっとアジュガ様の腕にしがみついた。 「きゃぁぁぁ」「こいびとどーしっていうのよあーゆーの!」「姫様やっぱりけっこんするんだ!」「何百年もずーっと好きだったんだもんなー、許す!」 「ひめさまもだいしゅきなんだねー」 いやぁぁぁぁぁ!絵本とごっちゃになってる子いる! 恥ずかしすぎる! 後ろのお遊戯室から聞こえるのは、可愛い声たちで。子ども達がお昼寝から起きたなら、教えてくれたらいいじゃん!ガーベラ!!   ・ 子ども達にめちゃくちゃ祝福されて保育園を出てきた。 「「「けっこんおめでとー」」」 うん、そうなったら嬉しいけど。まだ、だよ。 図書室に行きたいとどちらともなく言って。 アジュガ様と考えてることはおんなじで。でも、探した本は見つからなかった。 図書室の奥の方にあるベンチにふたりで掛ける。ガーベラ達は少し離れたところに立ってる。 「やっぱりありませんでしたね。あの絵本は、保育園にしか置いてない」 図書室には、国内外の新刊をどんどん揃えてる。単にまだ取り寄せてないだけって言われたらそうなのかもしれないけど・・・。 先に保育園においてあるというのはやっぱりおかしい。特に、子どもに読ませる本だもの、図書室長の検閲も必要だ。 「昨日、久しぶりに”保育園”へ行って、私も初めてあの本を読んだの。 ふた月前に行った時には無かったわ」 アジュガ様を連れてきて、子ども達が泣いたりしたら、彼は悲しむもの。 昨日は、お昼寝の時間に雨だったら園庭を見せてもらうことが出来る?と聞きに行った。 そしてあの絵本を知った。あの本と、それに対する子どもたちの反応とを。 これって・・・アジュガ様は嫌な思いをしないんじゃないかなと思った。 「あの絵本は」と言いかけたアジュガ様は、下唇を噛む。 「私じゃないわ」 たぶん、一番聞きたいのはそこよね。 「あの本は、トラルト領の黒目黒髪の者の助けになるように作られてるのでしょうか」 発行年は今年だった。 「丁寧な装丁だったから・・・前から準備してあったものだとは思う。 アジュガ様と私のために、急いで仕上げてくれたんじゃないかな。 王都で読まれるようになるのも早いかもしれない。 ・・・あれで、お兄様は公平な人なのよ」 ”その絵本”で。 魔王様は、伝承と同じように姫様と子ども達をよこせと言う。 挿絵は泣いてる子ども達。不思議そうな姫様。 魔王様がそう言う理由は寂しいからで。みんなと一緒に暮らしたいだけで。 でもそれに気付いたのは姫様ひとり。 泣いてる子どもたちのために、と騎士達は魔王様へ剣を向ける。 騎士達から誤解されたまま追い払われる魔王様の挿絵。その絵の表情はとっても哀しそうで。 それから何年も何百年も経った描写のあと。息を引き取る魔王様は「次は、誰かと生きてみたい」と呟く。 次のページでは、黒髪の男の子が描かれて。 ・・・生まれ変わった姫様に言うの「私と、結婚してください」 絵本はハッピーエンドで終わってた。 「・・・伝承をゆがめたら、悪い事をしてはいけないという教訓が生かせなくなりませんか?」 冷静に状況を見てるふりしてもダメよ。アジュガ様が嬉しそうとか悲しそうとかもうわかるもの。 「ふふ。我が国の文化は随分成熟してきてると思うわ。 それに。あの絵本で魔王様は、悪い事はひとつもしてないし」 ローダンセ様から借りた本も。伝承に沿っていたけど、悪い事をした描写は一度も出てこなかった。つまりはあの本も、きっと兄ちゃんが作らせたもの。 続きの巻はきっと。絵本と同じ内容。 思い込みで黒髪を怖がる人がいるのなら、新しい思い込みの情報を与えちゃえばいい。兄ちゃんってば、面白いこと考えるね。 「第1王子殿下は・・・」 言いかけたアジュガ様はなんだか悔しそう。 いいよいいよ、別に。兄ちゃんの事なんか。 くすくす笑って。わたしはまたぎゅっと彼の腕に摑まる。 「アジュガ様、あの絵本を子どもたちに読んでくれたでしょ。とってもいい声で。 私、すっごくドキドキしちゃったわ」 ”姫、我と共に来い。お前たちもだ、ずっと、ずっと我が城で暮らすのだ” 高飛車な物言いしかできない魔王様だけど、アジュガ様の声は優しくて。まるで頼みごとをしてるみたいに聞こえた。 歴代最強と言われる強面魔王様から出る柔らかい懇願。あ――――!最高か! ほぉう!って性癖全開でため息ついた私の耳元で。 アジュガ様は違うセリフのほうだと思ったらしくって。 くらりとするような甘い声で囁いてくれた。 「私と、結婚してください」 あ。だめです。その言葉も最高です。
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