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あと1個、あと1個だけ。・・・もう1個だけ(まだ食べるのか)
あの夜会で、5人を招待すると約束したお茶会は。3日後に迫ってる。
ヒペリカム様は、そのために一時帰国してくれるんだって。そんなたいそうなお茶会じゃないのに、ちょっと申し訳ないね。
アジュガ様にも招待状を渡したら、どこから聞いたのか兄ちゃんから呼び出されてしまった。
だめって言う気かなー。そんなこと言ったらもう口きいてやんないよ。
兄ちゃんの執務室、応接用のソファセットには。私の好きなお菓子がすでに並んでた!
あー、良かった。ガーベラ置いてきて。
また「甘やかしすぎです」「食べ過ぎです」ってそれぞれ怒られるとこだったよ。
「アジュガ、招待したんだな」
兄ちゃんは執務机からす――っとやってきて。扉からソファまでエスコートぉっ?
してくれなかった。
ひょいと抱えあげられて、ぽん、と座らされた。ううむ。
「いつものみんなが、アジュガ様に会いたいって言ってくれましたから」
微妙に返事をずらしてしまう。さっさとお菓子へ手を伸ばす。
「姫様」
あ、こいつが居たっけ。
咎める口調は、兄ちゃんの筆頭侍従。おほほほほーと微笑んで胡麻化すけど、お菓子は離さないよーだ。
「いいじゃないか。好きなだけ食べさせろ」そーだそーだ、兄ちゃんいい事言うねぇ。
こほん「ええ。では、ドレスが入らなくならない程度にお召し上がりください」
く。・・・全部食べるのはやめといてやるよっ!
兄ちゃんはくすくす。笑う要素なんかないでしょ!
「父上とも話したのだが・・・お茶会はもう、お前の判断で招待客を呼ぶべきだそうだ」
やった!お父さんありがとー!
だいたい。私のお茶会なのに、いつまでも兄ちゃんが仕切ってて。ぽーちゅ達にめっちゃ揶揄われてたんだから!
にまーっと笑う私を。兄ちゃんは立ったまま恨めしそうに見下ろしてきて。
「ふぅ。ま、ゼフィも大人と認められたんだしな・・・。とってもそうは思えないけど?」
にやっと、私の頬にくっついてたらしいお菓子くずを取ってくれた。うっ。
向かいのソファへどさっと腰掛けた兄ちゃんは・・・ちょっと、疲れてる?
ちらっと侍従を見上げると。微笑ましそうに見返された。べ、別に心配じゃないよ!
「大丈夫です、姫様。アマル様は好きでやっておられます」
やっぱりオーバーワークしてるんだねー。ん-。
「・・・絵本とか?」
ふたりは、ちらっと視線を合わせてる。
やっぱり。あの本と、絵本は兄ちゃんの仕業だねー。
「・・・まぁ、あれはすでに準備していたものだから。
それに、お前の”保育園”のおかげで素早く結果が見えたというだけだ。
もともと、トラルト家との縁談は打診したばかり。10年ほどをかけて各貴族家の説得をするはずだった」
10年・・・。
そっか!!
「アジュガ様の妹と」
「あぁ。ハプとの間に結ぼうと、考えられていた」
私達の可愛い弟。そっかー。
その頃には、王都の意識改革も進んでて。
辺境伯閣下や、アジュガ様が王都に来ても王子妃のフェイジョアちゃんは嫌な思いをしなくて済む。
そんな予定だったんだねー。
王城の一部の人を思い出す・・・あんな風な目で。大好きな兄が見られるなんて想像しただけで悲しいもん。
「ありがとう、お兄様」
「お前のためにやったんだ」
アジュガのためじゃない!って続きそうなそのセリフが。王城で過ごすことになったアジュガ様のためだってバラしちゃってるよ、兄ちゃん。ふふ。
兄ちゃんは優雅な所作でお茶を飲む。
「話を戻すぞ。お茶会の件だ。
ヒペリカムもイベリスも、今日明日中には王都へ着くそうだ。
イベリスは、お茶会の日から王城へ滞在すると決まった」
やっと。婚約者候補として交流する人が、2人になるのか。
「5人のうち、候補を辞退した3人はいいんだが。
アジュガも出席させるとなると、コリウスひとりだけ候補者として対応できない、ということになってしまう。
だから、これはお願いなんだが。
婚約者候補としての対応は、誰にもしないでほしい。
3人の候補とも、ただのお茶会の客として扱うように頼みたい」
はいと返事する。
お茶会の主催は私だ。みんなに楽しく過ごしてほしい。
私の返事を軽いと思ったらしい兄ちゃんは。
「アジュガともきちんと距離を置くんだぞ?」念を押してくる。
はいってば!
「承りました」
真面目に返事したのに、まだ兄ちゃん疑いの目を向けてくる。うー。
私の様子が、報告されてるんだろうねー。淑女らしくもなく、べったべたしてるもんなー、アジュガ様に。
スーッと目を細めちゃう。
お、このお茶美味しー。
「・・・あと。
お茶会にひとり、私の知り合いを招待してもらいたい」
?別に構わないけど・・・なんでそんな言いにくそうなの?
首を傾げると兄ちゃんは説明を始めた。
「父上に打診中の話なんだが。
・・・もうひとり婚約者候補が増えるだろう。
遠い領地であることを理由に求婚を断っていた家があってな。トラルト辺境伯家が候補に挙がるのなら、再考をと言ってきた。
最初に婚約を申し込んできた家だ。他に断る理由は無い。
書類が整い次第、彼も王城へ滞在するだろう」
その前に顔合わせすべきだけど、ふたりでは会わせられないし。今度のお茶会はちょうどいいから、と兄ちゃんは言い訳した。
「サッカラ辺境伯家の嫡男だ」
「サッカラ・・・。そこって。1回侯爵家になったお家ですか?」
よく勉強してるな偉いぞ。って手を伸ばして頭撫でるのやめて―。
もともと他国と縁を結ぶのを嫌う国だったサッカラは、もう我が国に取り込まれて長い。我が国が領土を広げた時に辺境ではなくなった。
なのに、わざわざ辺境の土地と領地を交換し、また辺境伯を名乗ることになった。
サッカラ国民だった人たちは、魔力の高い人が多く。魔獣の出る地域を守るために、当時の国王が決めたこと。と歴史書には記されてる。
我が国となった時に王女の降嫁があったきり、王家との縁は無い。そろそろ人質を欲しがってるのかもしれない・・・。
「これは、サッカラだけに限らないが。政略だのなんだの考えすぎるなよ」
兄ちゃんがにっこり笑ってくれたから「もちろんです」と返しておいた。
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