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(王女に気付くとすぐに。近くのシャワー室へ着替えを持ってこさせていたベル)これは4倍?
ひぇ。こういう雰囲気は知らない。し、しかも自分が対象になってる。
やるねぇ、なんて野次?飛ばされたり、指口笛?吹かれたり。
ひゅううぅぅぅの音に耳が痛い。
今世はもちろんだけど、前世の記憶でも。こんな風に注目されたことは無いよ。
たぶん、赤くなってる。
たぶん最初、止めようとしたガーベラは。結局にまっと笑って黙ってる。
ちょっと待って。こんな、こんなの対応に困るぅ!
「よ、よせ!!!」
低音の大人の声は、武骨なガゼボのほうから。
「よさないか!王女殿下の御前だぞ!」声の人は騎士たちへ怒鳴りながら、こっちへ走ってくる。
口笛も冷やかしも。いきなり消えた。
あー、これは。
他の方には、私だと今まで気付かれてなかった?
そいえば、1階から訓練を見るのは初めてかも。いつも上の階からこっそり見てたっけ。王族が見学するなら、最初に挨拶をすることが多いけど。それは面倒だったんだもん。
「も、申し訳ございません!!」
走ってきた男性は、アジュガ様の横に膝をついて、深く頭を下げてくる。
いや別に怒ってないよ。恥ずかしかっただけで。
・・・ちょっとだけ嬉しかったかもしれない。
「謝罪の必要はないわ。来た時に挨拶しなかった私が悪いんだもの」
まさか王族が視察に来てるとか思ってなかっただろうし。それに小雨が煙ってて顔とかよく見えてなかっただろうし。
ふたりとも立ってちょうだい、と言うと。
アジュガ様が立ってくれて「さ、副隊長も」そう声をかけてくれる。
渋々ながら走ってきた彼も立ち上がった。
大きい人ねぇ。アジュガ様よりも背が高いわ。
アジュガ様はまだこれからも伸びるんだろうけど。
20代半ば?同年くらいかなぁ。・・・いや、違う違う。今の私からしたら随分年上なんだった。・・・どこかで見たような?
その人は、この時間の訓練の責任者だと名乗った。第5騎士団第3騎士隊副隊長。
第5は、王都の街を守る騎士団・・・。あ。
「前にお会いしてるわよね?
あの時には、私の我儘で急な任務に就かれたのでしょう?ありがとう」
8歳か9歳の頃、離宮へ行った。はじめてのひとりのお出かけ。あの時には、本当にたくさんの騎士が警護についてくれたんだよね。
今思い出しても、家族の過保護が申し訳ない。
「過分なおことばっ
言いかけた言葉は、他の騎士達に遮られた。
集まってきた彼らが、一斉に膝をつき。謝罪の言葉を放ったから。
いいのよ。って言っても聞いてくれない。立ってくれなさそう。
うーん。
「ベル、」
「承知しました」
言いかけただけなのに、ベルはアジュガ様を引きずって訓練場を出て行った。
よくわかったねー。
「最初からやり直すわ。だから今までの事はすべて不問よ。
副隊長、今日の訓練を見学させてもらえるかしら」
そう話しかけると、彼は。
「もちろんです、士気も上がります。ありがとうございます」と返事をして。
整列!と声をかけてくれた。
立ち上がった彼らはたてよこともまっすぐに、ぴしりと並んだ。
王都の騎士団に対する遠慮なのか、辺境伯家の騎士はその後ろに一列。
マスゲームみたいだねー。それってなんだっけ?小学校でやった、ような?
兄ちゃんはこんな時、なんかよくわからん訓示をたれて、自分も訓練に参加してたっけなー。私はそれをよく、こっそり見に来てた。
第5騎士団は王都の街での仕事が多い。前世で言う所の警察や消防みたいな?
もうやみかけてるけど雨だから、なるべく短く”いつもありがとう、王都の治安が良いのは第5騎士団のおかげよ。訓練頑張ってね”みたいな言葉を。それから辺境伯家の騎士にも”臨時騎士になってくれた時には助かったわ。領地を離れて大変でしょうに鍛錬を欠かさないなんてすごいわ”と誉め言葉を。それぞれ贈った。
よし。終わり!
「・・・じゃ、みんな私の事は気にしないで訓練を続けてちょうだい」
はいと返事してくれると思ってたのに。辺境伯家以外の騎士達が、口をぽかんと開けた。
私を・・・?
私の後ろを見てる?
「お待たせいたしました」
振り向くとアジュガ様。
アジュガ様?!
早っ!二度見しちゃったよ。
さっき私はベルに、私の挨拶中に着替えてきてと頼むつもりだった。言わないまま、理解してくれたんだと嬉しい。
濡れてるままじゃ、お茶に誘えないもんね。急な挨拶に自信が無くて、アジュガ様には聞いてほしくなかった。という理由でもあるけど。
コート着てきてくれたの?すっごく格好いいけど「訓練してた時のようなシャツで良かったのに」ベルもきちんと侍従の恰好をしてる。ふたりとも着替えるの早いねー。
「え?」
って声は女性騎士のもの。慌てて口を押さえてるけど、大丈夫。他の人もみんなぽかん、だよ。
「あー。聞かれなかったので、黙っていたけれど。俺は辺境伯家の者だ」
アジュガ様はなんだかばつが悪そうにそれだけ言った。
・
視察、が建前だからねー。
そのまま、サンルームにお茶を用意してもらって。横並びに座って訓練を眺めてる。
雨は完全に止んで。見通しは随分いい。ちらちらとこちらを見てしまってる騎士もいる。私の事よりも、アジュガ様の事が気になるみたいだ。
「ご身分を内緒にしてたのね?」
「意図的に秘密にしていた、という訳では無いんですが」
もともと辺境伯家の騎士たちは、訓練場が空いている時間の使用許可を得たそう。
その日も空きコマ?が終わって。去ろうとしてると。
「先ほどの副隊長と、偶然ここで再会して。一緒に鍛錬する事を提案してもらえたのです」
鍛錬の時間が足りないでしょう、とアジュガ様たちを引き留めてくれたのだそうだ。
ん?「再会?」
「はい、この王都へ来た日。門でお会いしていたのです。
・・・この髪にびっくりしたことを。謝られました」
あの副隊長だけは、アジュガ様を知っていたけど。
「陛下の要請で、臨時の騎士を勤めてくれる辺境伯家の騎士達だ」とまとめて紹介されたそう。その期間が過ぎても訓練への参加を許されて今まで。
だからまさか高位貴族だとは、誰からも思われていなくって。
アジュガ様は肩をすくめて言う。
「トラルトでなら俺が訓練に参加しても、誰も特別扱いはしないので」
別にわざわざ言う事でもないか、と放置したそう。
そっかー。
「私が来なかったら内緒のままにできたのね」
ごめんなさい、と誰にも聞こえないようにこそっと呟く。アジュガ様耳がいいから。
「やめてください。私が怠惰だっただけです。さっさと言っておくべきことだったんです。反省してます」
アジュガ様も小声でそう言う。ほんの少し、体をこちらへ傾けて。いつもと違うコロンの香りがする。
「・・・本当に。反省しています」懺悔するような口調は真摯なのに。
じっと見つめられて。甘い香りに酔いそう。
「ゼフィ様、許してくれますか?」
なんだっけ。ぽーっと顔を見てたから、頭が働かない。何を許すの?
「私がきちんと身分を明かしていたら、女性騎士たちは不躾に私に近寄りはしなかった。・・・先ほど、ベルから怒られました」
あぁっぁぁぁ!
は、恥ずかしい。そうだ、焼きもち焼いて訳わからない事言っちゃったんだった!
そ、その蕩けるような目で見つめないでください。どこか嬉しそうに謝るのはやめてー!
「べ、ベルのご褒美は3倍で」「畏まりました」間髪入れないガーベラのお返事。
「ありがとうございます!」
何が何だかわかってないはずなのに。ベルったら、にんまり笑ってそう言うんだもの。
アジュガ様はむすりとしてしまった。
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