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ほほほ。わたくしは王女ですのよ(が、ガンバレー)
「本日は、私のお茶会へようこそ」
小さな応接室へ入って、淑女の微笑みでそう告げる。
ご招待有難うございます、という揃った返事。
彼らは初めての”私の招待客”で、会場へは私が連れて入ることにした。
一旦集まってもらったこの応接室は、置いてあったソファセットを片付けてあるんだけど。それでも、男性が7人も居たら圧迫感を感じるね。
「ご存じの方もいると思うけど。私のお茶会に出席してるのは、幼い頃からの友人だけ。長年の慣習として、身分に関する不敬は問わないことにしてるわ。
だから。お茶会の間は、皆さんも同じように振舞って頂戴」
王女としての威厳を少し。特別に参加させるのだという雰囲気を少し。
一番に配慮するのは、友人たち。それをわかってもらいたい。
「家名を名乗るのも禁止だし、尋ねるのも呼ぶのも禁止よ。今日はファーストネームで呼び合って。個人、として参加してくれると嬉しいわ」
冷たく全員と目を合わせる。彼らはきちんとアルカイックスマイルで。それぞれはいと返事をしてくれた。
「では参りましょう」とその部屋の掃き出し窓から外へ出る。
爽やかな風。雲が多めの晴れ。庭でのお茶会にはちょうどいい天気。
ガーベラが私をエスコートしてくれる。後ろから身分の順に7人が、並んでついてくる。そのうちの”4人”が私の婚約者候補。
でも今日のお茶会では、候補としての交流はできない。他の方と同じ対応をするように言われてる。私にも。彼らにも。
会場からは・・・ふふっ。ぽーちゅの声ってどうして響くんだろ。
真後ろから、彼女の笑い声に息をのむ音。公爵家令息コリウス様。・・・きっとこの後、もっと驚くだろうなー。
まだ主催者が来てないのに、友人たちはすでに椅子に座って、おしゃべりを始めてるんだもの。
「みんなそのままで。・・・座ったままでいいわ」
会場を見渡して、いつもなら掛けもしない声をかける。我ながらすごく気取った声だった。ぽーちゅ、今は笑わないでよ?
6脚の丸いガーデンテーブルに、それぞれ6脚の椅子。
まばらに腰掛けている友人たちは、珍しく体ごと向き直ってこちらを注目してくれた。
えー!誰も揶揄うような表情してな―い!それはそれで緊張するじゃん――。
一緒に来た”招待客”は、後ろの人から順にテーブルへ案内されていく。
さて、私も急いで座らないと。きっと彼らは私の着席を待つもの。
「コリウス様は、私と同じテーブルですわ」
一番近いテーブルには女性ばかり3人。そこへガーベラが座らせてくれた。
ちょっと戸惑ったコリウス様も、メイドが引いた椅子に腰かけた。
・・・初参加者たち全員が、周りを気にしながら順に座っていく。
だよねー。戸惑うよねー。でもうちのお茶会はこんな感じ・・・いや、いつもはもっとひどいかな。
「皆様。今日は楽しんでくださいね」
これが、開会のあいさつ。・・・テキトー過ぎる?
いいの。もうほっといて。
テーブルごとの雑談はすぐに始まって、それぞれ自己紹介してるみたい。
コリウス様は私の対角線上に座らせた。彼の隣はぽーちゅ。
「ポーチュラカです」早速話しかけた彼女に、コリウス様はほんの少し目を見開いた。真ん前だから、すごく困惑してるってわかっちゃったよ。
高位貴族家の方が、他家の家族構成や名前を覚えるのは常識だもん。ぽーちゅが伯爵家の令嬢だ、って気付いてるんだろうな。
「今日は過ごしやすいお天気で良かったですよね」
へらっと空を見上げるぽーちゅに。
「!・・・は、はい。そうですね」
瞬き多いな、コリウス様。
彼が一番身分が高いから、こんなお茶会は不敬だとか言い出すかもしれないなー。とドキドキしてたんだけど。だから私も、最初は彼と一緒のテーブルを選んだんだけど・・・。
・・・結構、すぐに慣れてくれたみたい。
ぽーちゅと笑いながら話し始めてくれた。流石よねー、ぽーちゅは誰とでもすぐ仲良くなっちゃうねー。
はーほっとしたー!
だってさー。私も、緊張してる。いつもと違って威厳を無くさないようにと頑張ってるし!
・・・だけど。ぽーちゅでさえも、私の態度には突っ込まないでいてくれてる。ありがとう!絶対からかわれると疑ってたよ、ごめん!
時間が来て、次のテーブルへ私だけが移動。主催者だからね、全員と話さねば!
「コリウス様。ごゆっくりなさってくださいね」
立つ前に声をかける。
彼は、こんなに楽しいお茶会は初めてだと言ってくれた。
「お茶会に行きたいとおねだりをしてしまって。恥ずかしく反省していたんですが。
今は、よくぞ言ったと自分をほめてしまいそうです」
ちょっと照れてそう言った彼は可愛らしかった。ほんっっと美少年!
次のテーブルには、男女それぞれふたりずつ。
イベリス様とローダンセ様。女性騎士を目指してる友人と、本好きの友人。
4人は、ぽつりぽつりと話をしてた。
無口な人ばかり集めたテーブルだもんなー。この席順は間違ったかな、とドキドキする。ぽーちゅ達と比べたら盛り下がってるようにしか見えなかったもん。
だけど、加わってみれば。南砦の話に他の3人は興味津々で。
イベリス様はそこから戻って来たばかり。質問攻めにされていた。
みんな楽しそうだ。またもほっとする。
国境の見張りに使う砦は、国土が広がる度に新しく造られる。役目を終えても建造物はそのままだから、砦跡を含めるとかなりの数が国内には残ってる。地形や新しい土地の風土に合わせて造られた”砦”は、国内の物語の舞台になってることが多い。
南砦の女性騎士の物語には、冒険心をくすぐられたっけ。
「本当に南砦には隠し通路があるの?」
私の質問は、さっきローダンセ様がすでに聞いたそうだ。
「最初の質問はやはりそれですよね」3人ともうんうんと頷いてくれた。
イベリス様は砦の生活を話してくれて・・・。
でも時々、ほんの少し返事を躊躇されることがあるみたい。ゆっくりと言葉を選んでる?
・・・国境の砦だもの。血腥いことだってたぶん、あるんだろうね。
女性もいるこの場で。それを気付かせないように砦の事を話してくれる彼は、とても誠実に思えた。
「・・・え!!
では砦の近くにはキウイの木がたくさんに?!実は、実はなりますの?」
あの実は外見は地味なのに、中身は綺麗なグリーン。しかも甘くておいしいんだよ!!
「「ぷふっ」」
同じような笑い方が重なる。・・・しまった。食べたい!って気持ちが前面に出てた!?
「こ、これは失礼を」すぐに表情を整えたイベリス様。
「ふふ。姫様ごめんなさい」まだ笑いながら謝るローダンセ様。
むー。そうだ!失礼だぞーおぉぅぅぅ・・・恥ずかしい。今日だけは王女らしく振舞おうと決めてたのにー!
・・・でもふたりとも。瞳が柔らかいねー。
笑われても嫌な感じなんて全然しない。
イベリス様にも弟妹が居るからなのかなー。
「お兄様って言う立場の人は、みんな雰囲気が似るものなんですかね」
ふたりとも。兄ちゃんが私を見る時と同じ感じだよ。微笑ましく見られてる?って言い方であってる?
「「「「あー」」」」
って!4人全員声揃えるところだった?!
その発音にはガッカリ感がついてるよ!?
”ええ、大変にお可愛らしいです”
そういう意味の言葉を。男性ふたりから、ほぼ同時にかけられる。
女性ふたりからは、姫様ドンマイ。と小さく言われて次のテーブルへ移動した。
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