ここに居るのはただの招待客。そう招待客!ってだけ。

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ここに居るのはただの招待客。そう招待客!ってだけ。

アジュガ様は・・・なるべく好奇心旺盛じゃ無い方たちのテーブルに、と配慮したつもりだったんだけど・・・。 質問攻めにあってる? 右へ左へとにこやかに顔を動かしてる。うん、質問攻めにあってるな。 そういうの!ぽーちゅの役割だよね?君たちがするとは思ってもみなかったよ! 空いていた椅子へ掛けながら、友人達へちらっと非難の視線を送るけど。 「うふふ。 姫様がいらしたから、この手の質問はここまでにしましょうか」 って、平気で見返された。 みんな、今まで何を聞いてたの?! ”この手の質問”って言い方が不穏なんだけど?? ・・・彼女たちの次の質問から、前の質問を推理しようと思ったのに。 「そうですわね。ではアジュガ様、お好きな色は?」 それは当たり障りが無さすぎる質問だったよ。 「好きな色」呟いた彼は「ミルクチョコレート色」また呟く。 どうして私の目を見ながら言うの?!赤くなりそう。やめて。今日はダメ。 今日の私は王女。彼はただの招待客!! 色の意味なんて考えるな!私! 落ち着こうとお茶を飲む。眼を逸らしたかったわけじゃ無い。喉が渇いただけ・・・たぶん。 心の中で大きく深呼吸! アジュガ様はどんな質問にも素直に答えてる。私はただそれを聞くだけ。 王女の態度でね。微笑んで背筋を伸ばして、威厳も少し。見てる分には完璧な所作のはず。 ・・・なのに、あー。いやだ。私って情けない。 友人を名前で呼ぶ彼が嫌。友人がアジュガ様、と呼ぶのが嫌。 なんだか胸がざわざわする。もう呼ばないでって喉まで来てる。 今日は家名は禁止。そう自分が頼んだくせに、他の方がファーストネームを呼び合ってるのは平気だったくせに。 私ってほんと。バカみたい。 友人たちは彼の外見を怖がってない。どんどん質問されることを彼は嫌がってない。このテーブルもまた、とてもいい雰囲気。 なのに・・・なんか悲しー。なんか寂しー。 でも、口は開かないよ。聞いてるだけにする。 だってさー。ごきょうだいは? 妹さんがひとりいらっしゃるのよ。 なんて。横から答えてしまいそうになるんだもん。ほとんどの質問に答えられるよ私!アジュガ様の事なら私に聞いて頂戴! 絶対に誰にも分らないようにと微笑んでるのに。アジュガ様は心配そうに私を見る。 「ぜ・・・殿下のお好きな色は何色なのでしょう」 ゼフィって、今日は言えないのね。 どうして私だけ名前を呼んでもらえないのさっ!兄ちゃんのばーか! フンだ!「黒以外かしら」 ・・・あ。 またやってしまった。王女らしく、はどこ行った?いじけてるとバレバレの答えは、他のテーブルまでは聞こえてないよね? テーブルの全員が、目を。下を向いた三日月の形にするのやめてくれない? にまにま。あらあら焼きもちですか?って顔しないでっ! アジュガ様まで!にまって!イケメンはそんな表情でも格好いいなんて悔しい!! 「そ、そろそろテーブルを代わる時間だわ」 私は逃げるように次へ移動した。 4脚目のテーブルには、女性だけ。すでに婚約者のいる友人たちばかり。 「今日のお茶会はどう?」 早速聞いてしまう。いつもとは違う趣向だもの、不安で。 「いい感じに進んでると思う」「ほんと?良かったー」「姫様、がんばってるねー」「もう少し肩の力抜いてもいいと思うよ。どのテーブルも話が弾んでるみたいだし」「そうだよね?私もそうかなと思ってたとこ」肯定されてほっとする。 「もっと、不敬だとか。伝統的じゃないとか。言い出す方がいると思ってたよねぇ」うん、心配だった。兄ちゃんですら心配してたから。 「さすがは王子殿下が、姫様のために探した候補たちですね。性格もいい方ばっかりみたい」うん。その通りだな。静かに会場を見渡す。みんな楽しそうに笑ってくれてる。・・・友人達もまた、兄ちゃんが選んでくれた人たちだもんな。私って、恵まれてるね。 「みんな、今日は接待役してくれて助かってるよ」 「私たちは免除されたけどねー。でも、姫様を接待するよ。おつかれー」 「ありがとぉ!」あ、なんかうるっときちゃいそう。 「でもー。今日は姫様のいちゃいちゃ見れると思ってたのにねー」「婚約者交流禁止なんでしょ?なんで?」「お兄様がねぇー」ってことにしとく。 「やっぱり王子殿下かー」「あの過保護はちょっと引くよね」「えーそう?私は羨ましいよ?うちの兄様なんか私の事、使用人扱いだもの」それは前にも聞いたことあったなー。でも喧嘩するほど仲がいいって感じたよ? 「しっかし。姫様今日はすごい。ずっとピシっとしてて、まるで王女殿下みたいだよ」「こらこら、姫様は一応王女殿下なのよ?」 「・・・一応ね」今日はその言葉、ちょっと心に堪える。ほんと私って一応、だよ。 でも。やっと素で話せてほっとした。英気を養って次に行くぜ! 次は一番人数の多いテーブル。 候補を辞退なさった3人の令息と、まだ婚約者のいないふたりの令嬢。 ヒペリカム様は、そつなく会話をリードしてた。 流石だねー。すっかり気付いていらっしゃる。 このテーブルは特に、なんだけど。このお茶会、お見合いも兼ねてるんだよ。 王女の婚約者候補は、数年前から見繕われていたらしくて。私より年上の彼らは、他の婚約者を探せないまま私のデビューを待っていてくれた(兄ちゃんが待たせてたともいう)ってわけ。・・・私自身は知らなかったけどさ。 迷惑をかけた以上、次の婚約者を見つける手伝いは当然で。 今日の席順は兄ちゃんと話し合って決めた。 ただ、ヒペリカム様は。 「今日のためにご帰国なさったと聞いたわ。忙しかったのではありません?」 隣国で、魔法薬の治験に協力してる。と兄ちゃんは言ってた。 「毎夕の診察以外は、何も決めごとは無いのです。どちらかと言うと暇に過ごしています」と微笑まれた彼の笑顔は。 ・・・以前の笑顔と少し違う気がする。 「子どもの頃のように過ごしてます。好きな本を読んで、適度に体を動かして。こっそり邸を抜け出して街を散策したりして」 父が私のためにと隣国に邸まで購入してくれるとは思ってもいませんでした。と笑う彼は。うん、なんだかすっきりとしたような笑顔。 でも優しさは変わらないね。このテーブルのお見合いをまとめようとしてくださってる。ヒペリカム様が時々挟む言葉が、他の4人にいい作用を起こしてる。 「ヒペリカム様は凄いのねぇ」 私にはとても出来ないわ。こっそりそう言って、ふふふと笑いかけると彼は。 「・・・そんな風に素直にお言葉をくださるから、少し話しただけで私は殿下の虜になってしまったのですよ」 それは、隣に座った私にしか聞こえなかったはずで。それににっこりと笑われたからきっとただのお世辞だったはずなんだけど。 「私自身の臨床がうまくいかなくても・・・あの魔法薬の研究に携わりたいと考えています。 高位貴族として生まれながら、魔法力が低いために、領民の助けになることが出来なくて。ずっと悔しい思いをしてきました。 だからこそ、私に出来ることがきっとある。父の許可と王家の後押しを頂きました。あの国の研究機関へ勤めるつもりです」 いつもニコニコしてるヒペリカム様は一瞬だけ、笑顔を消して私を見つめた。 「これが最後の帰国となるかもしれません。 王女殿下のお幸せを。心よりお祈り申し上げます」
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