やっとお茶会も終了時間。肩こったー。

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やっとお茶会も終了時間。肩こったー。

真剣な表情のせいか、その言葉は社交辞令には聞こえなくて。返事が出来ないまま、ヒペリカム様の顔を見つめてしまった。 でも。 すぐに千草色の瞳は緩やかに細められて、優しい微笑みが戻ってきた。 だから返事が出来た。 「・・・ありがとう。私も、ヒペリカム様のご活躍をお祈りいたしますわ」 そっか。 もう会えない、それを寂しいなと思う。 多分彼も、同じように思ってくれたんだろう。 最後のテーブルには、男性ふたりと女性ふたり。 そこへ行こうと見ただけで・・・うわぁ・・・なんか嫌になったー。 だって。すごく上品に談笑してるんだもの。 全員アルカイックスマイルだし。洗練された動きだし。 貴族らしいいい雰囲気だし。ははは、ほほほって笑い声も上品だし。 ひぇぇ。 このテーブルだけ、立派な普通のお茶会みたいじゃない?? これって私もマナーきちんとしないとだめ?これ以上?もうすでにいっぱいいっぱいに頑張ってるよ?これ以上? ・・・無理ぃぃぃ。 助けて。このテーブル、パスさせてー。 でも今日は私が主催!そう、一応とはいえ主催の王女! 自分で叱咤激励!ガンバレー! 「楽しく、過ごして頂いてる?」 私を迎えるために立ち上がろうとする4人を手で制して。笑いかけながら、空いている椅子へ。 今までのテーブルと違って、全員が私が座るまで注目し。 勿論ですと、口々に返してくれた言葉も、アルカイックスマイルから出された。 ・・・くっ。 だぁかぁらぁ。 こういうきちんとしたの、苦手だってば! 通常なら、一番。楽な態度で居られる人が揃ってるのになー。 父方の従兄弟、母方の従姉妹とはとこ。そ、みんな親戚。 ただ、もうひとりは。 兄ちゃんがお茶会へ招待してほしいと言った、サッカラ辺境伯家の方だから。我が国から離反するならこの家と、ずっと言われてるサッカラ家だから。 ・・・3人は、隙を見せられないと頑張ってる?のかな? 美しい青い瞳。ダークブロンドの髪は複雑に編み込まれているせいか、肩までの長さに調えられてる。所作はどこか・・・失礼だけどなよなよとしてて。華奢な体形も相まって。うん、美少女の男装に見える。 「先ほどはご挨拶が出来ませんでしたので」そう前置きしてから。は「お久しぶりでございます。ゼフィランサス王女殿下」と優雅に会釈した。 他の3人の笑みが深まる。・・・不穏な感じに。 王族の名前って、ちょっと特別なんだよ。許可なしで呼んだら、不敬を問われることさえある。私はそういうの、ばかばかしいと思う派なんだけど・・・。 テーブルは沈黙に包まれた。 これ私。しれっと返事しちゃったら、この3人に怒られるもんなー。私が気にしない分、みんなが気にしてくれてる。 その雰囲気に、はっと驚いた彼は、悲しげな表情を。 「・・・殿下は・・・私の事を覚えてはいらっしゃらないのですね。 いえ。当然ですね、どうしてそこに思い至らなかったのか・・・。 大変失礼をいたしました。どうかお許しください」 真摯な謝罪。それに応えないわけにはいかない。招待客だしね。 「いいえ。ちょっとびっくりしただけです」 笑顔で不問とする。 「ありがとうございます。 実は私は、幼い頃に王女殿下とお会いしたことがございます。殿下はとてもお可愛らしかった・・・。 その頃は、お名はもちろん、愛称呼びも許して頂いていたのです。 つい懐かしく、お名を呼んでしまいました。本当に失礼をいたしました」 要らない情報をぶち込んできたなぁ・・・図書室で会った時にも、むかし会ったことがあると言っていたけど。 「改めまして、ヤプランと申します。殿下、本日はご招待ありがとうございます」 柔らかい動きは、図書室での所作と全然違う。だから今日は兄ちゃんに似てるとは思わないのかな。この人もまた、粗を見せないように頑張ってる? このテーブルに国王派ばかりを集めた理由を、彼は理解してるはずだ。 さっき。応接室で、ちょっと驚いた。あの場で知らない顔は、サッカラ辺境伯家の方・・・のはずだったのに。知ってる顔ばかりだったから。 図書室で会った日から、ずっと彼の事は気になってて。 思い出そうとしてるんだけど、ぜぇんぜん思い出せないんだよねぇ。 本当に私と会ったことある?? 図書室での事は無かったことにするって約束したし。 「いいえ、来てくださってありがとう」と笑っておいた。 愛称、という言葉に。いとこたちはいつ頃会ったのか。と質問を始める。 うん、良い質問! 私も期待に満ちてヤプラン様のほうを見る。 なのに。 「もし可能なら、殿下に思い出していただきたいのです。ここで話をすることはお許しいただけませんか」 と言われては。引き下がるしかないよねー。がっかり。 いつ頃会ったのかくらい、教えてくれたっていいのに! 仕方なく3人は、私の顔を覗き込んでくるけど。 ごめん。覚えてないんだよ!君たちこそ、覚えてない? 親戚だもん。彼らはこのお茶会以外でも王宮へ来てくれてたし、遊んだりしてた。 ・・・・・・ うん、誰も覚えてないねー。 当事者はそっちでしょ?困った子ねーっって目で見ないでぇ。 年上の従姉妹が。 「幼い頃の姫様は本当にお可愛らしかったですわー。成長とともに瞳の色が変化する子どもが居るけれど、姫様も昔は赤い色でしたっけ?」 いや、そんな事実はない。・・・ひっかけ問題のつもりかな?同意すべきか? 「私が知る限り、殿下の瞳は変わってませんね。理知的で、理性的な茶色。いつも凪いでいて、なのに好奇心はお持ちで」 にっこりとヤプランは相好を崩す。ふふっ「お転婆でいらした」 合ってる。合ってるけど。最後の一言、言わなくてもよくない? 親戚組3人は、どんどん私の個人的な事を知っているか聞き始めた。 ・・・そう言えば彼は、私が侍女から逃げ回ってたことも知ってたっけ。 「姫様が好きな色はご存じ?」 「幼い頃の、でしたら。青系統のお色ですね。・・・しかし、実は桜色のような薄いピンクもお好きだった」 その通りだ。その通りだけど。デビュタントで桜色のドレスを着てるから、そこから類推しただけかもしれない。 他の3人もそう思ったのか、質問はだんだんカルトクイズの様相を示してきた。 ・・・いや、その話は問題としてどうかなぁ。ふ、双子の塔によく上ってたことも知ってるの?!兄ちゃんの侍従に肩車のやりかたを解説して、強請って、王城を練り歩かせたことも知ってる。 ・・・この人。本当に私の幼い頃を知ってる? なんか、王女らしくない王女の話で盛り上がり始めてるー。やめてー。 私の視線に気付いたヤプラン様は、皿へ手ずからお菓子を取り分け渡してくる。 「殿下は甘いものがお好きだけれど。これも、お好きでしたよね」 ・・・うん。まあね。甘いお菓子は何でも好き。 でも、テーブルに多種ある中で一番好きなお菓子は。お皿に乗せてくれたこれ。この塩辛いのが、大好きなんだよ。 3人は、ちらっと視線を交わした。 彼の言葉は本当だと認めたみたいだ。 「姫姉さま、本当に彼を思い出せないの?」 従兄弟の口調はすっかり敵陣営。 「姫様。思い出して差し上げないと可哀想よ?」 違ったぁー。3人とも敵だ!すっかりヤプラン様の味方になってる・・・。 彼はすごく私を知ってるみたいだというのに。 私はそれほど交流してた人を一切思い出せないおバカな王女だもんなー。 ・・・自分でも情けないとは思うけど。 思い出せないものはしょうがないじゃん! はぁぁぁ。3人の目が冷たぁい!
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