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ガーベラって人の気持ちに寄り添いすぎると思うの(結構本気で反省してたみたいだよ)
ドレスの着付けが終わるとすぐに、ガーベラはメイド達を部屋から出してくれた。
彼女たちが出て、扉が閉まった途端に肩の力を抜いちゃって。
あ!しまった、注意される!ってガーベラを見ちゃったんだけど。
ガーベラは小さなピンをひとつひとつ検めてる手を止めないで、私の態度に気付かないふりをしてくれてた。
そっか。
私がすっごく緊張してる事に気付いてるから、甘く見てくれてるんだ。これから新しい婚約者候補との食事会だもんなー。今のうちにちょっとだけ気を抜いていいですよって声が聞こえそう。私の専属侍女、最高だ。怒ると怖いけど。
「・・・姫様、こちらへどうぞ」
ドレッサーの前に座らせてもらう。ドレスって動きにくいよね。
ガーベラはハーフアップにした髪に、花の細工がされたピンをいくつも。真剣な顔でつけ始めてくれた。
「子を持つ女性にいろんなことが優しくなりましたわ。その始まりがご自分だと、カルミア様は今もお知りではないでしょうね」
お喋りをしていたガーベラの声が、どことなく低くなる。
どうかしたのかな?と思いながら鏡越しに見つめるけど。ガーベラは鏡のほうを、つまり私のほうを見ようとしない。
「うーん。まぁ、そうね。カルミアの妊娠がきっかけではあるわよね」
”だけど”
と、私が続ける前に、ガーベラは早口で話し出した。
「姫様は夜会でカルミア様をお探しでいらしたのですね。わたくしはやはり、夜番をすべきでした。そうしてもっと早く姫様のお気持ちに気付くべきでした。あの頃から変わらずに姫様はカルミア様を大切に思っていらっしゃるはずなのに、どうしてそれに思い至らなかったのか。彼女に会いたいと思っていらっしゃることを、わたくしはもっと早く気付かねばならなかったのに。一度もご様子をお聞きにならないから、お伝えしなくてもいいのだとどこかで考えていたようです。本当に申し訳ございません」
がっつりと頭を下げてくるガーベラ。
えー?なんの話??
って聞く前にまた早口。頭を下げたままの声はくぐもってる。
「もう姫様はご成人なさいましたし、孤児院への慰問の帰りに伯爵家へ寄られても、なんの問題もございませんわ。次の夜会を待たれるより、そのほうがずっと早くお会いになれるかと。
早速予定を組んで、カルミア様へご連絡を差し上げます」
うんって言えば、今にも走って出ていきそうなガーベラ。
「いいえ、別に。会わなくてもいいわ」
ってきっぱり返事してから。
あ。これじゃまた、カルミアを嫌ってるみたいに思われる?
ちょっと焦る。
「いえ、ええとね。まずガーベラ、頭を上げて。
えええええと。
そう!カルミアは今妊娠中って言ったわよね?そんな時に王女と会うとか負担じゃないかな?い、今は会わなくてもいいかな」
出産後とかで良くないかなぁ。カルミアの3人目の出産がいつ頃かは知らないけど。私の婚約が調って、王都に居なくなってたらそれはそれで仕方ないよねー。
顔を上げたガーベラは不思議そうな表情をしてる。
「ええ・・・と、姫様?ずっとカルミア様に会いたいと思っていらしたんですよね?」
さすがガーベラ。積極的に会いたいと思ってない!って気付いてくれた。
「いや、会えたら嬉しいのよ?でもずっと会いたいとか、別に思ってなかったわ」
正直に言ったのに、ガーベラは悲壮な表情になった。
「・・・姫様。もうこれ以上、わたくしにお気を遣われないでください。
わたくしの心情を慮って、今までカルミア様のことを話されなかったのでしょう?あれほど悲しいお別れをされたのを間近で見ていながら、わたくしときたら、そのことを今まで考えもしておりませんでした。
お優しい姫様にお気を遣わせて、わたくしは自分が情けない」
鏡越しのガーベラの目は潤んでるみたいに見える。うーん。ガーベラが俯いて泣きそうなのなんて、初めて見るかも?
「ガーベラに気なんか遣ってないわ」
うん悪いけど、ほんとに遣ってない。カルミアには遠慮してたけど。
「で、でも姫様。か、カルミア様だってずっと姫様に会いたいと思っ」
「いやぁ、それも無いと思う」
無遠慮に言葉を遮る。別に向こうも会いたいとか思ってないよねー。きっと。
「す、すっかり失念してしまっていたわたくしが言うのも何ですが、姫様はあの頃、無理をしてカルミア様に会いに行かれて。お別れをすごく惜しんでいらして・・・」
あーうん、それはそう見えたはずなんだけどさー。
「カルミアには、そうね。感謝してる」だけどそれは「おかげでガーベラと会えたから」だよねー。
ぽかん、って感じのガーベラは、ちょっと嬉しそう?・・・って!え??
「え? どしたの?!泣かないでよ、ガーベラ!」
さっき多分我慢した涙が一粒、ぽとり、と落ちた。
私なんか悪い事言った?え??失礼な事言った?
焦って振り向いて、ガーベラに手を伸ばすとぎゅっと両手を握られる。
「姫様。あり、ありがとぉございまず。わたくしなどにそのように言ってくださって。ここしばらく、わたくしは。ずっと姫様のおそばに居たくせに、そのお気持ちすらわかっていなかったのだと、自分が情けなくて辛くて。
せめて。せめてカルミア様の半分でも姫様の御心に添えていなければならなかったのに、わたくしときたら・・・」
カルミアの半分?
「ええと。別にカルミアは私の心に添ってくれたりしてないと思うんだけど」
困った子だなーと思われてただけだろうな。私自身を見て、そばに居てくれたのはガーベラのほうだよ。
実際、カルミアには1回も捕まらなかったけど、ガーベラには見つからなかったことが無いもの。それが楽しくて以前よりずっと逃げ出す子になっちゃったくらいだもん。
ガーベラ。ちょっと冷静になって?
「ねぇ。ガーベラが今までカルミアの事、気にもしてなかったのは、私が気にもしてなかったからでしょ?」
その通りだったのか、ガーベラの視線は右往左往する。
「で、でもそれは・・・姫様がわたくしを気遣って、話題にされなかったからでは?」
「ガーベラ?何年私と一緒に居るのよ?」
考え込んだガーベラは・・・ふうう、と息をついた。それもそうか、とやっと思ってくれた?ほんと、今日はガーベラらしくない日だね?
ガーベラは、ヤプラン様の言葉を確認するために。前の侍女長に私の小さい頃の話を聞きに行ってくれたのだそう。わざわざお休みの日を使って。
職を退いて5年くらい?きっと暇だったんだろうねぇ、前侍女長。ガーベラは、ほぼ1日中お喋りに付き合わされたみたい。
ガーベラが知らない頃の話だけしてくれれば良かったんだろうけどねー。
そこで「貴女が急に筆頭侍女に選ばれた時は大変でしたわねー」なんて話になってしまったそうで。
「あの時には、もうただびっくりしてしまって」「お兄様が大好きで、そちらを優先してしまわれることはあったけれど。それ以外では聞きわけの言い王女殿下だったもの。あれほどお怒りになるとは思ってもいなくて」
「まだまだ成人したばかりで貴女も可愛らしかったわね。まぁ、お母さんになったの?おめでとう。・・・すっかり大人びて、わたくしも年を取るはずねぇ」
「そうそう。貴女のおかげで、殿下はカルミア様が居なくなるのがお寂しかっただけ、とわかって。ほっとしたんでしたわねぇ」「王女殿下はでも、カルミア様に侍女に戻ってもらう事は我慢してくださったんだったわ」「あんなにも懐いていらしたのだもの、今でも彼女のお話が出ているのじゃない?」とかって言われて、ガーベラは考えこんじゃったようだ。
「あぁ、懐かしいこと。お小さい頃の殿下は本当に素直で鷹揚でいらして」
・・・うん、多分。前侍女長のなかでは昔のことが美化され過ぎてるね!
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