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楽器が出来て、刺繍が出来て、詩作が出来て、ダンスが上手で?いや、ガーベラは急に選ばれたわけだし(披露しないだけで出来るん・・・だよね?)
「まだ8歳でいらしたのに、カルミア様のために、と我慢なさったのでしょうねぇ。殿下は本当にお優しくて聞きわけが良くて。周りをよく見ていらして気遣いのできるお子様で」
前侍女長は繰り返し私を褒めてくれたらしい。最後には涙まで浮かべながら。
うん間違いなく、いい思い出に変換されてる。はぁぁ。
「ガーベラは私が平気でお部屋を抜け出したりしてたこと知ってるでしょ?」
それなのにそんな言葉をどうして信用するかなぁ。
「急に変更になったわたくしが苦手でお部屋を出てばかりいらしたのかもしれないと、今さら思い至りまして・・・」
うわぁぁ。なんでそうなる?!
「私はガーベラが来る前から、こっそり部屋を出てたわ!」
なんでこんな怒られるようなこと自分から言わねばならぬ?のさ!
「王子殿下のお散歩に合わせて、ですよね。王子殿下はお兄様ぶるのがお好きで姫様を良く無理やり連れ出していらしたと前侍女長様が」
「それも美化されてんの?!」
つい口調がくだけて、ガーベラからちろりと睨まれる。
いやぁ、だってね。兄ちゃんに勝手について回ってたっていうのに。兄ちゃんの評価下げてるとは思ってなかったよ。兄ちゃん、ごめん。
少しうんざりな私にガーベラは。
「あれほど姫様の本質を見抜いていらっしゃる前侍女長が仰るのですもの。姫様はずっとわたくしに気を遣っていらしたのですわ!」
また前侍女長の言葉を信じ始める。
あー。
ほら私って、めったに誉められないからさー。ガーベラきっと嬉しかったんだねー。これだけ私を褒める人が言う事は正しいと思っちゃったんだねぇ・・・ほんと私の事が好きだよねー、ガーベラって。
ちょっと照れる。
王女殿下のお気持ちを汲んで差し上げてね、とかも言われたんだって。
だけどさぁ?
ずどーんと呆れた眼で、わざとガーベラを見る。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
結構な沈黙のあと。
耳を赤くしながら、ガーベラは言い訳を始めた。
「で、ですけど。本当に今まで、姫様はカルミア様の話をほとんどなさいませんでしたわ。
わたくしに申し訳ないと思って話題になさらなかった、と思う方がすんなりと納得できるではありませんか」
その言葉にはなーんにも言わないで、もっとじーっと見つめてみる。
・・・
・・・
ぐうっと体を小さくしたガーベラは。
「ええ、そうですわ。全く何にも!カルミア様のことを思い出されてなかった、と言う方が姫様らしいですわ!」
と怒ったように言うから、ふふふっと笑ってしまう。
「ほうらね!そうでしょう!!」ガーベラなら考えたらわかる事じゃない。私ってすっごく単純だよ。
これで解決!ってにっこり笑ったのに。
「威張って仰ることではありません!」
叱られた。
・・・ごめん。でも、それでこそ。いつものガーベラだよねぇ。
【筆頭専属】ってものものしい名称だけど、基本は子どもの御守り。
王子の場合は侍従。王女の場合は侍女。
男の子は走って回るから、体力自慢を。って先入観が、代々続いてるんだよね。侍従って言いながら騎士団から選ばれてた。
で。
王女の御守りは、もちろん淑女!
教養高く、立ち居振る舞いは優雅。楽器が出来て、刺繍が出来て、詩作が出来て、ダンスが上手で。あー、ばかばかしい。
きっとねぇ、カルミアは困ってたと思うの。
『わたくしが学んできた事を王女殿下にお教えして差し上げる』
なんて思っていたんだろうに。
相手は私だったんだもの。お部屋に居るより、お散歩のほうが好きな王女。
あはは。今でも申し訳なく思うよ。
お淑やかにと頑張って来た貴族女性が、外に飛び出してく私の面倒を見る羽目になったんだもの。
思い出せるのは困った顔ばっかり。カルミアは私を追いかけても、ぜんぜん捕まえられなかった。諦めて、日焼けを気にしてお部屋で待ってるだけになるのは早かったように思う。
外で私の面倒を見てたのは、兄ちゃんとその侍従・・・達で。
あの頃はカルミアの事、一緒に遊ぼうとしてくれない人、としか思ってなかったなー。
ちゃんと反省はしてたんだよ?兄ちゃん達と遊びたくって出て行っても。ある程度遊んで、お部屋へ送ってもらったら。ちゃんとカルミアの言うこと聞いてた。
お部屋で、楽器を習ったり、詩作したりしてた。
でも、ほんとつまんなくて。つまんないって思ってるのはバレバレで。カルミアも困ってて。兄ちゃん達が散歩だって名目で、探検に連れて行ってくれるのが息抜きになって、またカルミアは時間の半分をひとりで部屋で待つことになって・・・悪循環だったよねー。
その上、しばらくしてカルミアは妊娠しちゃったでしょ?
悪阻でご飯食べられなくなって。どんどん動くのも辛そうになって、立っているのも苦しそうになって。
「いつまで仕事するの?」
って聞いた時には、もう前世の記憶を思い出しちゃってたから。出産のための休暇を前倒しでとらせようと思ってたんだよね。なのに。
「動けなくなる頃まで参ります。産後には、数日お休みをいただくと思います」
はぁぁ?!ぶちぎれちゃった。
ここは妊婦を大事にしない国なのか?!
「今すぐ止めなさい!」
それは、カルミアに対して怒ったんじゃなかったんだけどな。
・
慌てて、無理を言って。カルミアに会いに行ったのは、会いたかったからじゃない。
「ガーベラが来てくれて、みんな勘違いしてますって教えてくれた時。
カルミアに会いに行きたいと言ったのは、ただ謝りたかったからよ?
あと。彼女の立場が悪くならないようにと思っただけ」
王女の不興を買って侍女を辞めさせられたって思ってる人も居るって教えてくれたから。
これから伯爵夫人になる予定の彼女が、一応王族の私から嫌われてる、とか言われたら困るだろうな。家族から・・・はっ!お姑さんから文句言われてるんじゃないよね??
嫁姑ってなんか怖い!そんな記憶に促されちゃった。婚家の伯爵家で、カルミアは嫌味を言われてるかもしれないって考えちゃった。
私は別にカルミアを嫌ってたわけじゃない。大好きだったか?と聞かれたら困るけど。
王宮に妊婦を呼びつけるのは嫌だったから、会いに行くって言った。
けど、兄ちゃんが酷く心配して反対したし。未成年の王族の外出ってほとんど前例が無くって、王女が王宮を出ることは認められないって言う奴も居たし。
あの時は、ほんとあちこちに迷惑かけたっけな。それもみーんな、ガーベラが調整して、説得して、手配してくれたんだよね。離宮に行くという建前でやっと出かけられるようにしてくれた。
結局、兄ちゃんは騎士達を総動員しちゃったけどね。
・・・ほんと、あの時には迷惑しかかけてないよなー。
建前の離宮訪問の帰りに、本音の伯爵家へ寄ってもらって。カルミアに会って、すっごく懐いてる演技をした。体調を気遣って、戻ってほしいけど我慢するからね。とか言って・・・。伯爵家の家族は感動してたけど、カルミアの瞳の奥は困惑して冷めてたっけ。そんな関係性じゃなかったもんねぇ。
だけど最後には「ありがとうございます。王女殿下もお元気でお過ごしくださいませ」と言ってくれた。何のために来たのか、わかってはくれたみたいだったなぁ。
・・・あー。あの演技、改めて思い出すとやり過ぎてた?ガーベラが思い出して心配しちゃうほど?
でもさー。
帰りの馬車では肩の荷もおりて、すっかりご機嫌になった自信があるんだけど?あれっきりすっかりカルミアの事忘れちゃった自信もある!
「カルミアの妊娠は確かに切欠だったけど。それはほんとに切欠だっただけよね?
私の適当な話を形にしてくれたのは、お兄様とガーベラだもの。
お兄様にどんどん意見を言うガーベラ、見てて楽しかった」
最初、誰も私の話を聞いてくれようとしなかったんだ。
あの頃は特に前世の考え方に引きずられてて、私の言う事はなんだかこの世界には合わなくて。制度を真似することは出来ても、その根本の考え方は、簡単には伝わらなくって。
そりゃそうだよ、仕方ないよなー、諦めようかなーって落ち込んだ。
だけど、そんな私を見てぷつんと来たガーベラが、兄ちゃんを巻き込んでくれて。どんどん兄ちゃんに対してけんか腰になっていって・・・。
ふふふ、と思い出して笑う。ガーベラだけが最初から、私の話をまっすぐに聞いてくれた。
「・・・ふ、不敬でしたわ」
反省なんかしてもいないガーベラは、とりあえずそう言って視線を逸らす。
「でも、姫様の素晴らしい考えを聞こうともしないなど!王子殿下がお悪いのです!」
まぁったく!ガーベラったらいつだって私の事が一番なんだから!
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