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どっちも私の味方なんだけどなー。
ガーベラだけが、冷たい声を出した。
「その言葉をどうやって信用しろと仰いますの?」
貴族らしく微笑んでるけど、目が笑ってないね。
「ここには今、影と呼ばれる組織の者以外にわたくしと姫様だけですのよ?」
対峙してるふたりともがにぃっこり笑ってるから、私もにっこり笑っとく。
「侍女殿が、影をどう思われているか知らないが。
バイモは王女殿下の影武者だとすでにお伝えしたはずだ。それをそうあからさまに疑うのは不敬ではないのかな?」
うわぁ、兄ちゃんそっくりの声音だねぇ。しかもちょっと不機嫌な時の。
だけど残念!ガーベラはあの兄ちゃんに説教したこともあるんだからね。
「姫様を危険にさらすくらいなら、不敬を咎められるくらいが何でしょう」
ほうらねぇ。反対に落ち着いちゃったかも。
ふふん、ちょっと威張ってヤプラン様のほうを見る。
「あぁ、なんだ。ゼフィは僕の味方はしてくれないのだね」
それはそうだよ、私だって図書室で見極めようとされた時、あんまりいい気分じゃなかったもの。
「アマルの言うとおり、ゼフィは良い侍女をお持ちだ」
ヤプラン様はガーベラを認めてくれた。
「試すような真似をして失礼した。
これをご覧になるといい。陛下より頂いた承認の指輪というものだ」
ヤプラン様は指輪を右手の人差し指へはめ、こちらによく見えるように綺麗な手を差し出してくる。そこには王家の紋がしっかりと刻まれていた。
これでガーベラもわかってくれたかな?と見ると・・・。
あー。
失言だったねぇ、ヤプラン様。ガーベラの目が点になってる。他のこと考えてるね。きっとアマルって呼び捨てたことだ。
「ガーベラ、お兄様がお許しになっている事よ」
ヤプラン様は、兄ちゃんを愛称で呼ぶんだよねぇ。
ガーベラははっとすると、深く礼を取った。顔を上げるまで注視したけど。もう猜疑的な表情は消していた。
兄ちゃんのお気に入り。ヤプラン様の立ち位置がやっとガーベラにもわかったんだろう。私がなぜここまで信用しているのかも。
「バイモのために怒ってくれたこと、有難いと思う」
ヤプラン様はにこにこと、効果的に一息入れた。
「サッカラという国があった頃、国民は総じて魔力が高かった。平民でも魔獣と戦えるだけの魔力を持っていたそうだ」
ガーベラは少し目を見開いた。
へぇ。サッカラ辺境伯家が領地替えをしたとき、かなりの領民を移動させたのはそのせいなのね。
「平民の中にごくまれに見つかる魔力持ちを、王都では先祖返りと呼ぶけれど。
サッカラ領民にとっては、よくあることだ。バイモのように、親よりも強い魔力や多い魔力量を持って生まれてくる子どもはそれなりに居る」
バイモは自分の名前に合わせて、カーテシーを披露した。うーん、私よりずっと洗練された所作だねぇ。あれ?それってダメじゃない?
「彼女の両親が王都で店を開いたのも、前辺境伯閣下のご指示だ。
バイモの能力には僕が太鼓判を押す。侍女殿にはご納得いただきたい」
ガーベラもまた。すっと腰を落とし美しいカーテシーを返す。
「お言葉有難く存じます」
ヤプラン様はまるでガーベラの許可を取るようなセリフを言ってくれた。
・・・それが嬉しかったのかな?
「・・・バイモ、お茶の用意をお願いね」
ガーベラは静かに命じると、私の後ろへと移動した。ヤプラン様に対する警戒はすっかり解けたらしい。
バイモは、さっと用意されたワゴンへ移動して、お茶の準備を始めてくれた。そのしぐさはいつものメイドの動き。私に似てるところは全くないね。
「他のふたりはどうなるの?」バイモを見ながら聞くと、言葉足らずだったのにすぐにヤプラン様は何を聞きたいか、わかってくれた。
私の影武者候補だった残りのふたり。
「ひとりは騎士見習いになる。ひとりは図書室に割り振ったよ」
騎士?
「彼はこれから筋肉が増やせると喜んでた」
「彼?」
聞いたのはガーベラだった。
「あら、申し訳ございません」
悪びれずにこりと謝るガーベラ。さっき質問しても構わないって言ったの、まだ有効だもんね。
くすくすとヤプラン様は「国王夫妻はおふたりとも長身だし。ゼフィも同じように背が高くなる可能性はあったからね。ゼフィが幼い頃に選ばれた候補は、女の子がふたり。男の子がひとりだった」
ヤプラン様の後ろで、侍従の格好をした男性が小さく何度か頷く。その頃の話をヤプラン様にしてくれたのは彼かしらね。”上司不在”の間、王城内の忍者を纏めてたのもこの人じゃないかな、と感じた。
「男の子のほうはかなり背が伸びてた。影武者は無理だと判断し、任を解くことにした。もうひとりの女性はいざという時のために待機状態とするけれど」
いざ。それはバイモに何かあった時?
「ガーベラのお小言は長いから。途中で交代したくなったとき?」
何か言いたげな雰囲気になったのに、だぁれも返事をしてくれなかった。
完全に空気を無視したバイモが、私の前に湯気の立つお茶を置いてくれる。お菓子もテーブルへ並べられていく。
「毒見は僕がしよう」
ヤプラン様は止める間もなくお茶をひとくち、飲む。
「じゃ、お菓子は」
私が毒見を!とひとつ摘まんだのに!
ヤプラン様はその私の手を平気で捕まえて!はむっと自分の口へ入れてしまった。人差し指が、唇にあたった。も一回さわれそう。つまんでやろうかな。
もぐもぐと咀嚼したヤプラン様は「懐かしい味だね。ゼフィはもう少し王女であるという自覚を持たなければいけないよ」
捕まえたままの私の手に、洗浄の魔法をかけてくる。
あぁ、この魔法も懐かしい。・・・めっちゃ使ってもらってたなぁ・・・。
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