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プロローグ
崩壊以前の世界は、潤いに満ちた世界だったそうだ。
海は心が晴れ晴れとするほど青く、澄んだ水面をたゆたわせて、山は清く凛と育った木々たちが実に神々しい。都市部は忙しなく栄えており、今よりもっと人口が多かったそうだ。
もっとも、今となっては歴史の教科書に載るような過去の話。
その昔、人類の元には"最悪"がやって来た。
前代未聞の大地震、"ノアの方舟"。コレにより世界各地で大規模な地割れが発生し、地獄からこの世ならざるモノたちが溢れ出した。
凶暴な彼らが扱う魔法は人間にとって大きな脅威となり、現に人類の人口は、かつての三割まで減少させられた。残りの人間は地下か、"女神様"が創りし特別な森の中で僅かな文明を築いている。
国立魔法専門高等学校、通称"寺子屋"。これはその文明の一つ。魔法使いを育てる数少ない教育機関である。
しかし、こういった専門機関があろうとも、今の魔法使いはかつての魔法使いに遠く及ばない。何故なら現代に残る魔法は、かつての魔法の劣化版だからだ。
ノアの方舟が引き起こした最悪の一つに、貴重な魔法文献の消失が挙げられる。かつての偉大な魔法使いたちが創造した魔法術式も、記録が無ければ再現することは出来ない。
さて、これはもしもの話だが、そんな現代の寺子屋に千年前の魔法使いを入学させたらどうなるのか、興味は無いだろうか。
化け物側の歴史では、人類のとある魔法使いが恐れられていた。
本名不明。性別不明。年齢不明。出身不明。固有魔法不明。魔力量不明。目的不明。全ての情報が異常に少ない彼女は、「泰然自若の虐殺者」という通り名で呼ばれている。
情報が無いということは、出会った敵の全てをその場で屠っているということ。そこに通り名を組み合わせれば、いかに理不尽な実力をしているのかが伺える。
その魔法使いの死体は上がっていない。故に、人類側では未だに何処かで生き長らえているのではないかと噂されている。
もしもの話だ。忘れてくれていい。
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