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たかしくんは無害
東 貴史は、9歳にして恋をした・・・・・・かもしれなかった。あの光景が脳裏に焼き付いてはなれないのだ。
それは学校から帰って手洗いうがいをしているときも、英語塾に居るときも、母親に怒鳴られながら夕飯を食べているときも、真っ暗な廊下で正座している時も、常に頭の真ん中にあった。
母親の許しが出て布団に入ると、股のあたりがムズムズしてくる。枕元に置かれた貴史の心は、トゲの先が丸まったウニのような形をしていた。前までは真ん中に凹みのある楕円形だったのだが、いつの頃からか形が変わり始めて変な心癖がつくようになっていたのだ。今夜も貴史はこっそりと心をなめすように撫でて、急いで球形に直した。
「まだ起きてるの? 早く寝なさい。」
貴史の隣の布団に母親が入ってきたのはそのすぐ後だった。自分の心を触ってる所なんて親に見られたら恥ずかしくて生きていられない。
「うん。今寝るとこ。おやすみお母さん。」
「おやすみ、貴史。」
貴史の心は丸くて無害。そういうことになっていたし、貴史もそれが正しいことであるから自分でもそうありたいと思っていた。
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