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数年前、男は仕事を優先し過ぎ、全く家庭に目を向けてこなかったせいで、愛想を尽かした妻と子供に家を出ていかれてしまう。
更に不運が重なり、真面目に打ち込んでいた仕事ですらも業績の悪化から真っ先に切られたのは年輩の彼であった。
二十年のローンを組んで購入した一軒家は独りとなった彼には無駄に広く感じる。
毎日帰宅する度にその“広さ”は自身のぽっかりと空いた心の“穴”と重なり、今まで歩んできた人生の責任を追及されている気分だった。
リストラを告げられた帰路にて、いつものように帰りの電車に乗る男。
「(死のう)」
そう心の中で呟く彼は降りるべき駅をわざと逃し、そのまま終点まで乗って、少しでも遠くに行こうと決心する。
誰も居ない電車内、“どうせバレないから”と行儀悪く座席で寝そべる彼の手にはもやい結びをした丈夫な縄が固く握られていた。
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