36人が本棚に入れています
本棚に追加
ペットショップ
気付けば俺は、犬に生まれ変わっていた。
ガラス越しに、デレデレの表情で俺たち犬を眺める人間。
突然ケンカを吹っかけてくる、同じゲージの小さなダックスフント。
きっとここはショッピングモールのペットショップだ。
俺はさっきまで人間であったことを忘れていた。
最後の記憶にあるのは、病室で全身の痛みから今すぐ解放されたいと思いながらも、泣きじゃくる妻と娘のそばを離れたく無いという思い。
なぜ今俺が前世を思い出したのかというと、その娘が俺の目の前を通過したからだ。
俺は向こうへ歩いていく娘に向かって、一心不乱に吠えまくった。
―――気付け、気付け、気が付いてくれ!!
周りにいた他の人間も驚いてこちらを向いたが、娘もキョトンとした表情で俺を見た。
―――やった!さぁ、こっちに来てくれ!
俺はシッポを振りながら、ガラスをカリカリ両足で掻いて娘を呼ぶ。
思惑通り、娘は嬉しそうにこちらに向かって来た。
間違いない、娘のサチだ。
あぁ、大きくなったな。
再会の嬉しさのあまり、思わず「きゅぅぅん」と声が漏れる。
娘はお座りした俺を見て嬉しそうに笑う。
俺が突然走り回り、また目の前でお座りすると声を出して喜ぶ。
調子に乗って再度走り回ると、寝そべっていたダックスフントにつまずき、勢いよく覆いかぶさってしまった。ダックスフントは怒り、喧嘩が勃発。
怒り狂った子犬の歯は細くて痛かったが、娘が声を出して笑ってくれたので良しとしよう。
最初のコメントを投稿しよう!