ペットショップ

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 気付けば俺は、犬に生まれ変わっていた。  ガラス越しに、デレデレの表情で俺たち犬を眺める人間。  突然ケンカを吹っかけてくる、同じゲージの小さなダックスフント。  きっとここはショッピングモールのペットショップだ。  俺はさっきまで人間であったことを忘れていた。  最後の記憶にあるのは、病室で全身の痛みから今すぐ解放されたいと思いながらも、泣きじゃくる妻と娘のそばを離れたく無いという思い。  なぜ今俺が前世を思い出したのかというと、その娘が俺の目の前を通過したからだ。  俺は向こうへ歩いていく娘に向かって、一心不乱に吠えまくった。  ―――気付け、気付け、気が付いてくれ!!  周りにいた他の人間も驚いてこちらを向いたが、娘もキョトンとした表情で俺を見た。  ―――やった!さぁ、こっちに来てくれ!  俺はシッポを振りながら、ガラスをカリカリ両足で掻いて娘を呼ぶ。  思惑通り、娘は嬉しそうにこちらに向かって来た。  間違いない、娘のサチだ。  あぁ、大きくなったな。  再会の嬉しさのあまり、思わず「きゅぅぅん」と声が漏れる。  娘はお座りした俺を見て嬉しそうに笑う。  俺が突然走り回り、また目の前でお座りすると声を出して喜ぶ。  調子に乗って再度走り回ると、寝そべっていたダックスフントにつまずき、勢いよく覆いかぶさってしまった。ダックスフントは怒り、喧嘩が勃発。  怒り狂った子犬の歯は細くて痛かったが、娘が声を出して笑ってくれたので良しとしよう。
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