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目覚め
―――カシャン、ゴゴゴゴゴ……。
「〇※◇×〇△¥□…」
―――ゴクン、ゴクン、ゴクン……。
「※◇×〇△……どう?私の言っている言葉、わかるかしら」
目の前の白衣を着た女性が心配そうに私の顔を覗き込む。
私は小さく頷き、辺りを見回す。
「あ、まだ動かないで。身体が馴染むまで…もう少しじっとしていて頂戴」
私は返事をしようとしても上手く声が出ない事に気がつき、また小さく頷いた。
白くシワシワな手がゆっくり若々しくなっていく。
まだ培養液がまとわりついた、スラッと伸びた美しい脚。
先ほどの女性から手鏡を向けられ、受け取ろうとするが腕に力が入らない。
「まだ無理よ。つい、昔の記憶で動こうとしてしまうのよね」と女性は笑った。
鏡に映った自分は……少し以前の自分の面影があり、ホッとした。
―――父親似ね。
この顔を見て、私は無事に以前の夫との子としてこの世界に蘇った事を実感した。
私が産んだこの身体は20歳のはずだから、今はきっと私が死んで16年経っている。
……もう何度目の20歳を迎えたのか、わからない。
そして今覚えている、以前の身体での経験もそのうちただの『記憶』となって薄れていく。
だけど、ずっと変わらず記憶している想いがある。
ーーーいつか、僕と結婚してください。
その言葉を胸に、何度も蘇りを希望してきた。
あの人は今、どこにいるのだろう。
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