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丘に着くと散歩やジョギングをしている人で賑わっていた。
私は隅の方でレジャーシートを広げ、その光景を眺める。
こんなに沢山の人の中から、あの人を見つけることが出来るのかしら。
急に向こうの方が騒がしくなった。
誰かが倒れたらしい。
あぁ、きっと7年の命が尽きたのね。
基本的に記憶を繋ぐ身体を予約してある場合は、記憶を残してもらうために命が尽きる前日までには自ら管理施設へ出向く。
だから今倒れた方は、予約が出来なかった、又はしなかった人。
誰かが連絡したのだろう、すぐに遺体引取業者が駆けつけてきた。
……もし、あの人が何らかの事情で記憶を繋ぐことが出来ていなかったら?
蘇っていても、私の事を忘れてしまっていたら?
既にパートナーが存在したら?
騒ぎのせいか、考えがどんどんネガティブになっていく。
文庫本を手にしていても、全く頭に入ってこない。
私は沈む夕日を確認し、その場を片付ける。
ふとレジャーシートの下の舗装面に刻まれていた文字を発見した。
携帯電話にタクシー運転手から迎えの連絡がきたが、少し待ってもらうようにお願いした。
だって、そこにはあの人からのメッセージがあったから。
『結』の文字の横に、5年前から昨年までの日付が刻まれていた。
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