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200年以上前のある日突然、地球中の蝉が悲鳴に近い鳴き声をあげ、息絶えた。
しばらくして蝉が生存していた地域を中心に紫色の雲が空を覆い、その雲はゆっくり世界中に拡散されていった。
地中の蝉の幼虫も全て息絶え、それ以降蝉を見かけることは無くなった。
そんな出来事が引き金になっていたとは誰も考え付きもしない7年後、7歳の子供が急に電池が切れた人形のように倒れ、死んでしまうという事態が発生しはじめた。
誰一人例外なく、7歳の誕生日を迎えると死に至る。
空が紫の雲に覆われた日以降に産まれた子供達だった。
誰かがこれを「セミ病」と名付けた。
セミ病が蔓延したままでは子孫が残せず、人類は確実に滅ぶ。
そのXデーは確実に迫ってきている。
世界中の医師や研究者たちが頭を突き合わせ昼夜調査、議論、研究を重ねた結果、当時は禁忌とされていた手段に行き着いた。
産まれた赤子を空気にも日光にも触れさせず、眠らせたまま特殊な機器で育てることで、その分寿命を延ばすことに成功した。
しかし、目覚めさせてからやはり7年しか生きられない。
歩行、生活、学習などを最初から習得していては、セミ病の研究を引き継ぐ者がいなくなってしまう。
ならば、生きていた者の記憶を与えれば良い。
死体からある方法で知識、記憶を取り出し、目覚めさせた人間に与えれば、それを吸収しすぐに言葉を発するようになる。
数時間後には身体を動かし、生活習慣、モラルを認識する。
親から子へのように、同性で血縁者ほど馴染みが良い。
しかし才能や感情は引き継がれず、全く別の人格となる。
―――よほど強い感情以外は。
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