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新しい生活
新しい職場は政府に返上された家の清掃業者。
ゴミの分別から始まり、清掃、リフォームが必要なところの確認をする。
遺品は基本的に全て処分するため、高級な物や思い入れのある品は持ち主が生前のうちに誰かに譲っていることが多い。
結月の時はウェディングプランナーという華やかな仕事だったが、今の私にはこちらの仕事の方が好きだ。
この家の持ち主だった人はどんな7年間を過ごしたのだろう、充実した人生を歩むことが出来たのか、妄想するのが楽しい。
だから、今日の仕事は辛かった。
「そろそろリフォーム担当がみえるはず……」
清掃を終え、リフォーム会社へ引き継ぐために担当者を待っていた。
いつもは書類の送付だけで済むのだが、今回は『死』を恐れて暴れまわった痕跡が残る住居。そこら中が穴だらけ傷だらけなのだ。
迫りくる『死』の恐怖に、耐え切れなかったのだ。
きっと、自分の記憶を繋ぐ身体を確保出来なかったのだろう。
自分の生きた証が、この世から永遠に消え去ってしまうという『死』。
私だって、あの人に会えないまま誰とも結婚出来ず、これといった楽しみもなく、次の人生の予定もなく7年で人生を終えてしまうと思うと、考えただけでゾッとする。
「お待たせいたしました、リフォーム担当です」
急に後ろから声をかけられ振り向いたが、私はその担当者の顔を見て驚いた。
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