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「ミーナ、こちらを見て。」
王子の温かい両手がわたしの頬を包んでいる。わたしは涙をこらえて王子を見つめた。
満月の夜。松明の明かりが風でゆらゆらと揺れている。
城の王子の部屋のすぐそばの広い縁側で、わたしと王子はお月見をしていた。
二人で並んで涼みながら、美味しいお茶を飲んで空の月を眺めた。雲の影から美しい黄金色の月が姿を表したり、隠れたりしている。
城でお風呂をもらったわたしは、湯上がりの透き通るような肌に濡れた髪を落とし、先ほどまで白い乾いた手拭いでゆっくりと髪をふいていた。
その様子を王子は眩しそうに見つめていた。
忍びが湯上がりに着る衣装は決まっている。肌触りのたいそう良い浴衣生地であつらえたものだ。王子がわたしのためにあつらえてもらった浴衣に初めて袖を通した。腰から下が袴のようになっている。上着の部分は、渋い萌葱色の地で、炎色や京紫色の花模様があちこちについている可憐な衣装だった。
腰から下の袴は涼しげな生地であつらえた紅桃色で、腰の高い位置で絞る帯には白地の小花模様が散らしてある。
嬉しくて、嬉しくてたまらない。
ゆっくりとキスをかわした。わたしの中に欲望をうっすらと感じる。
王子も湯上がりに着る浴衣生地の服を着ていた。袴は鳥の子色で、上着は薄卵色の地に韓紅色の模様があつらえてあった。艶やかだった。王子の美男子ぶりを際立たせていた。
――心臓がドキドキと高鳴る。
王子の母上に反対されているので、今はここまでだ。
王子は令和からは数億年先の未来の住人だ。タイムリーパーはあっちでもこっちでも忙しい。
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