第2話 王子視線

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*** 「マブリマギアルナアブロッシュは、正式に王子とミーナの婚姻を祝福いたします。」    1512年の冬。  壮麗な城の暖かい応接室で、俺とミーナはガッシュクロース侯爵夫人にそう言われて宝石が多数埋め込まれた美しいペンダントを贈り物として捧げられた。中世に巨大な力を持つ黒の秘密結社は、これで正式にミーナを許したということになる。   「ありがとうございます。」 「ありがとう!」    ミーナの因縁の相手だったはずのガッシュクロース侯爵夫人はすっかりミーナと打ち解けて仲良くなっていた。ミーナは侯爵夫人に抱きついてお礼を言っていた。俺は二人が打ち解けた経緯をまったく知らない。侯爵夫人から城に招かれて、警戒して行ってみれば、至れりつくせりの歓迎っぷりで驚いた。 「お祝いのお食事をご用意していますのよ。」  侯爵夫人は俺とミーナのために、美味しい料理とお酒を用意していた。  ワインを飲み、料理を食べ、窓からの雪が積もる中世の景色を堪能して夜も更けた頃、俺はついに侯爵夫人に聞いた。 「今晩はここに泊めていただいてもよろしいでしょうか?」  窓の外は雪に覆われている中で暖炉には煌々と火が暖かく燃え盛って部屋を心地よく暖めている。そういう雰囲気の中で中世の城に愛してやまない新妻と泊まる!  それは実現が信じられないほど追い求めてやまないロマン。俺は夢を追いかけたくなった。拍子抜けするほど侯爵夫人とミーナが打ち解けていたので、つい油断して侯爵夫人に聞いてしまった。    ビーズと刺繍がふんだんにあしらってあるゴージャスなドレスを着た夫人の片眉が、ぴくりと釣り上がった。  俺は横目でチラッとミーナのドレス姿を眺めた。この時代のドレスは胸元が深く空いているスタイルだ。普段は忍びの着物と袴姿なのでこれほどミーナが胸元の空いた服を着ることはなく、俺自身が戸惑うドレス姿だ。  ミーナは普段の見慣れないお酒を飲んだので、頬を赤らめて目が潤んできており………………。 「良いでしょう。客間を準備させましょう。」  ガッシュクロース侯爵夫人はそう言った。  顔が真っ赤になったミーナが夫人の言葉を遮ろうとしたが、侯爵夫人に止められた。    しばらくして、夫人のメイドに通された客間は暖かく暖炉で温められており、大きな寝具が置かれてあった。  天蓋付きのベッドだった。 「いつの間にガッシュクロース侯爵夫人と仲良くなったの?」  俺は顔を赤らめて、お酒に酔った様子で暖炉の前で両肩を抱いて立ち尽くしているミーナに聞いた。 「秘密よ。」 「いつか説明してくれる?」 「いつかね。」 「ミーナ、こっちに来て。」  俺はベッドの淵に腰をかけて、ポンポンとベッドを叩いた。 「いえ、王子がこっちに来て。」  ミーナは警戒したような雰囲気でそう言った。  俺はため息をついて、ミーナのそばに歩いて言った。 「目のやり場に困る。」  それだけそう言って、ドレス姿のミーナを抱きしめた。そのまま口付けを― 「カメラアプリミッション、クリアしました。」  爽やかな機械音がして、俺は世界が暗転するのを感じた。 「王子、わたしは母上の幸子さんと仲が良いのよ?」  勝ち誇ったようなガッシュクロース侯爵夫人の声が俺の耳に聞こえた。  ――ええ!? 「王子、挙式までは待てと言ったでしょうっ!」  母上の説教が忍歴で俺を待ち構えていた。何がどうなっているのかさっぱり俺には分からない。ガッシュクロース侯爵夫人と母上がそんなに仲が良いとは、聞いていなかった。  ともかくはっきりしたのは、もはやミーナは命を狙われていないということだ。  俺とミーナの婚姻に向けて、一点の曇りもなく、澄み渡った未来が待ち受けているだろう。そう信じる!
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