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みーちゃんとは幼稚園からの幼なじみで高校でみーちゃんが私立の女子高に行くまで、私達はいつも一緒だった。
私とみーちゃんは親友で恋人だった。
中学二年の冬から卒業まで、私達は付き合っていたのだ。
性別に関係なく、恋愛感情と友情がきちんと分離していない年頃というのはある。
「亜梨沙のことが好き。誰にも渡したくない。大好きなの」
お揃いのチェックのマフラーに鼻まで埋めて怖いくらい真剣な眼をしてみーちゃんはそう言った。
今になって思えば、私の好きはみーちゃんと同じ好きでは無かったと思う。
でも当時の私にはみーちゃん以上に大切で好きな相手なんていなかったし、みーちゃんに私以外の恋人が出来るなんて考えたくもなかった。
好きで好きで、たまらなかった。
だから私はみーちゃんからの告白を受け入れ、みーちゃんの恋人になった。
毎日メールして、休み時間手紙の交換をして、時々こっそり手を繋いで一緒に帰る。
付き合ったからといって私達の関係は大きく変わりはしなかった。
大切で大切で大好きだった。
「亜梨沙、私達ずっと一緒にいようね」
「うん、ずっとずっと一緒だよ」
一度だけ、キスをした。
キスしたのはみーちゃんからで、当時みーちゃんがひっきりなしに塗っていたハチミツ味のリップの味がした。
唇を合わせた瞬間のみーちゃんのはにかんだような幸せそうな笑顔を私は今でも鮮明に覚えている。
何故別れたのかはよく覚えていない。
その年代のカップルにありがちな自然消滅というやつだったのだと思う。
別々の高校に行くようになると毎日の日課だったおやすみなさいの電話もメールも途絶えがちになり、最初の内は土日にどちらかの家で必ずお家デートしていたのに、どちらからともなく「部活があるから」と言い訳して会わなくなった。
物心ついてから初めて一ヶ月も会わずに過ごした冬、再会したみーちゃんはまるで別人のように大人びて綺麗になっていた。
高校生になっても色つきリップすら塗っていなかった私はみーちゃんの目にはさぞ野暮ったく子供っぽくみえたことだろう。
でも変わったのは見た目だけで、みーちゃんはみーちゃんだった。
けれど、もう私だけのみーちゃんだとは思わなかった。
その頃になると私にもみーちゃんにも高校でそれぞれ仲の良い友達が出来ていた。私達の世界はもう私とみーちゃん、みーちゃんと私だけではなくなっていた。
私達はもう、毎日電話したりメールすることも、手を繋ぐこともなかった。
そうしたいとは思わなかった。
そんな風にしてあっけなく、私達は終わった。
あんなにずっと一緒だったのにそうなってしまうと途端に気まずくなって連絡しづらくなり、私が大学進学を機に上京すると完全に没交渉になった。誰かの口からみーちゃんの名前を聞いたのも実に十五年ぶりだった。
みーちゃんが死んでしまった。
私の知らないところで。
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