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あるとき、美術の時間に色鉛筆で絵を描く宿題が出された。提出された全校生徒の絵は体育館に展示されて、その中から大賞と優秀賞が選ばれる。大賞の作品は市役所のホールに展示されるということだった。このコンテストは市役所創立百周年の記念イベントの一環として行われる。
色鉛筆という縛り以外テーマは自由だったが、僕らはすぐに問題があることに気づいた。学校指定の色鉛筆は十二色だけど、二十四色の色鉛筆を使っている者も結構いたし、中には水彩色鉛筆を持っている者もいる。家庭の経済状況によって作品の出来が左右される恐れがある教育上問題があるルールだ。
なぜそんなコンテストが開催されたかというと、僕らの市内には色鉛筆を看板商品にしている全国的に有名な文具メーカーがあったからだ。今回のコンテストはその会社とのタイアップで、当然プロモーションも兼ねている。
「何色の色鉛筆を使ってもいいんですか?」
生徒の一人が尋ねると美術の先生は答えた。
「何色でも構いません」
皆隣りの席の生徒とヒソヒソ話を始める。僕の名前が何度か漏れ聞こえた。理由は明白だ。僕は百色の色鉛筆を持っているのだ。これまでも美術の授業でそれを使用しているから皆がそのことを知っている。
僕は居心地の悪い気分になったが、いつもの冷めた笑みを崩さなかった。
そのとき、里帆の声が教室に響いた。
「賞品は出るんですか?」
「大賞を取ったら、百色色鉛筆がもらえるそうですよ」
それを聞いて僕はがっかりしたけど、里帆の顔はパッと輝いた。
「よし! 私、本気出す!」
「バカめ! 三年生と大城画伯を差し置いて大賞を狙うとは!」
クラスで一番ひょうきんな吉田が芝居がかった声を出すと、皆がドッと笑った。
「そうだよ、里帆ちゃん。大城くんには敵わないよ」
「舞ちゃん、親友だと思っていたのに私の才能が信じられないの? 将来のゴッホだよ?」
「将来はゴッホかもしれないけど、〆切二週間後だから」
教室に笑いの渦が起きる。僕はそれをイライラしながら聞いていた。いつも里帆はクラスの笑顔の中心にいる。皆が彼女の味方なのだ。
里帆が立ち上がると僕を指さす。
「大城くん! 勝負だ!」
ショックだった。どうして僕が里帆を中心としたクラス皆の敵役なんだ? 何で大好きな里帆が僕をのけ者にするんだ?
それでも、僕は冷めた笑みのまま何でもない素振りを押し通した。
「構わないよ。受けて立つ」
わーっと教室中が盛り上がった。皆が口々に里帆を応援するのを耳にして、僕は暗い気持ちになった。
里帆なんて嫌いだ。彼女は僕が欲しいものを全部持っている。僕には友達なんて一人もいないし、両親も外面ばかり気にして僕に興味なんてない。この世界で僕は独りぼっちだ。
……だから、思いっ切り叩き潰してやる。
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