色鉛筆の片想い

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 二週間、コンテストの絵に全力を注ぐことにした。市役所創立百周年記念イベントのコンテストだから、海外の著名な建築家が設計した市庁舎の絵を様々なアングルから何枚も描きまくった。けれども、描いている内に段々自信がなくなって行った。  里帆の絵はとにかく自由だ。発想が柔軟で見る者が驚くような絵を描く。去年の秋の校内写生では、皆が紅葉する木々を見上げて描いた中、里帆はただ一人落ち葉を描いた。画用紙一杯の落ち葉には細かな葉脈まで描き込まれ、そこに無数の小さな虫達が息づく様はまるで生命の小宇宙だった。  このままでは勝てる気がしない……。  僕は〆切三日前に、通っている絵画教室の先生にコンテストのことを話し、アドバイスをもらった。卑怯なのは自分でもわかっていた。でも、負けたくなかった。里帆とクラスの皆を目の前でねじ伏せたかった。僕を除くクラスメート全員が里帆を称えて喜ぶ姿なんて死んでも見たくなかった。  今ならよくわかる。僕は歪んでいた。里帆のことが誰よりも好きなのに、彼女が傷つくことを望んでいる。まるで愛しいバラを両手で握り潰してしまう怪物のように。  絵画教室の先生は僕が描いた数枚の絵を見た後で首を横に振ると、市の中央を流れる早瀬川に水道橋を入れた構図で描くようにアドバイスした。 「大城くん。絵ってもっと自由で良いんだよ。せっかく技術はあるんだから」  それから一拍置いて、 「描くことを楽しむといいよ」  と残念そうに言った。 「勝ったら笑います」  僕はそう言い残して早瀬川の土手に自転車で直行した。  何度もデッサンを描いて構図を決めると、慎重に色鉛筆で色を塗って行く。すると、段々描いている内に自信が湧いて来た。  〆切の朝までかけて百色全てを使い切る気持ちで微妙な濃淡や陰影をつけた。結果として大人並みのリアルさと中学生らしい素朴さが際立つ作品に仕上がった。受賞するには大人すぎる絵じゃダメなことも僕はよくわかっていた。  描きあがった絵を満足気に眺めて思った。 どうやったって十二色の色鉛筆でこの絵を超える絵を描くのは不可能だ。  僕はそう安堵した後に、自分が更にまた孤独になったのを感じて息を吐いた。
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