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サンちゃんは、くるくるカールした毛がふわふわの茶色いトイプードルだ。しかも極めつきのセレブ犬だったりする。住んでるのはタワマンだし、とっかえひっかえ着ている服はどれもブランドもの。噂では、食事も完全オーダーとか何とか……。
隣の家に手が届きそうなちっさい建売住宅に住む、超どストレート庶民のウチとは比較にもならない。
「やっぱりさ、将来って大事だと思うよ。何か考えてないの? マジでノープラン?」
妙にツッコんでくるサンちゃんが正直、今日はウザい。
「まあ何となくだけどさ、医療とか介護みたいな感じ? ほら、人の役に立てる仕事っていうか……」
「ああ、ナナちゃんみたいなミックス犬は、そういう “ 地味カタい系 ” が向いてるかもねー」
仕方なく答えてみれば、露骨な上から目線のご感想にもやっとする。
「――いいね、サンちゃんちはお金持ちだもん」
「そんなことないよぉ。普通だよぉ」
どんな普通だ。クリスタルのお皿で、毎食オーダーメイドのごはん食べるのが「普通」なのか。謙遜も過ぎれば、もはや嫌味にしか聞こえない。
でも確かに最近、サンちゃんのママが、彼女のことを写真や動画に撮って “ えすえぬえす ” とかいうものに上げてる、っていう噂は聞いたことがある。
「あら、もうこんな時間。じゃあまたね、佐々木さん。ナナちゃん」
うちのママと立ち話をしていたサンちゃんのママが、リードを引っ張った。ようやくうるさいのがいなくなって思わずため息をつくのと同時に、ママもはああああと盛大にため息をついた。
「もう、間島さんは自慢話ばっかりで疲れるわあ。さ、ナナ、帰るよ」
うん、ママ。帰ったらごはんね。私、ウチのごはんがいちばん好き。実はスーパーの特売品だってことは知ってるけど、でもナナ、あれ好きだよ。だって美味しいもん。
私は尻尾を振りながら、ママの先をとっとこ歩いて家に向かった。
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