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そんなある日、一階に降りてきた私は思わず目が釘付けになった。
――ドアが開いてる!
普段は絶対に閉まってるはずの玄関のドアが、大きく開け放したままなのだ。ドアの隙間から顔を出して外を覗いてもママの姿はない。チャンスだ!
私は急いで外に走り出た。大丈夫、そんなに遠くまで行かなければ、一人でもちゃんと帰って来られる……はずだ。たぶん。
不安よりも、この機会を逃したくない気持ちが先に立ち、私は小さな庭を横切って道路に出た。
――ああ、なんて自由なんだろう! 窮屈なリードがないっていうだけで、顔をなでていく風がこんなに気持ちいいなんて!
けれどあんまりのんびりはできない。急いで誰かのところへ相談に行かなきゃ。
私は歩きながら考えた。
サンちゃん? ううん、だめだ。あの子はいつも私のことを馬鹿にしてばかりだもの。もっと優しくて物知りの……
私は、はっと思いついた。
そうだ、ちょっと遠いけど三丁目のキュウさんのところへ行ってみよう。キュウさんは、このあたりでは長老格の虎毛の秋田犬だ。直接話したことは1回しかないけれど、経験豊富なキュウさんなら、きっといいアドバイスをくれるに違いない。
私は勢いよく走り出した。
その後ろでいろんな人が大騒ぎしていることには、まったく気づいていなかった。
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