キラキラじゃなくても

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「ナナ!! あんた、いったいどうやってここまで来たの! ああもう、脚立を家に運ぼうとして物置行った、ほんの一瞬で抜け出すなんて……! キュウ、ごめんねえ。びっくりしたでしょう」 「ふむ、ワシは別に構わんがな、佐々木の。まあ無事で良かった」 というキュウさんの言葉は、門の隙間からキュウさんの頭を撫でるママには判らない。ママにはただ、キュウさんが耳をきゅっと伏せて、尻尾をはたはた振っただけに見えるのだろう。 結局私は、話の途中でママに引っ張られて帰るはめになった。 「まったくもう、ほんと冷や汗かいたわ。家に入ったら、どこにもナナの姿が見当たらないもんだから。まあそもそも、ドアを開けっ放しにしてた私がいけないんだけどさ」 ぶつぶつ独り言を言いながら歩いて行く途中で、あちこちから声がかかる。 「あ、ナナちゃん見つかった!?」 「どこにいたの? え、三丁目? ずいぶん遠くまで行ったねえ」 「とにかく事故に遭わなくてよかったね」 そのたびにママはぺこぺこと頭を下げた。なんか思ったより騒ぎになってない? 「ちょっと、ついでに原田先生のところ寄ってくよ。さっき慌てて連絡しちゃったし」 原田先生と聞いて、思わずぎくりとした。いつも通ってる『はらだ動物クリニック』のところだ。先生は優しいけど、あの独特のにおいとみんなの怖いモードが充満してて、あんまり好きじゃない。時々ちくっと痛いこともあるし。 「――ああ、そうですか。よかった、無事に見つかって」 「はい、近所の人たちが『ナナちゃん、ひとりで走ってったよ』って教えてくれて。それで慌ててワン友のグループLEINに上げたら、みんなが探してくれて……どうもご迷惑をおかけしました」 受付のお姉さんへまたもぺこぺこ頭を下げたママは、そのまま待合室の中に顔見知りを見つけて長話を始めた。順番を待っているたくさんの犬や猫が、しげしげと私を見つめている。どうやら私がやらかしたことは、とっくの昔に知れ渡ってるみたいだ。
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