【10】顛末

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【10】顛末

予期せぬ遭遇はあったものの、チェルナマチカ邸に帰邸すれば。いつの間に聞いたのか、ゼス兄さんが本日のレークとの遭遇の話題と共に出迎えてくれた。 「今日は大変だったねぇ」 「ゼス(にい)、ノー天気」 「はははははっ」 すっかりメガネ装備に戻ったフェル兄さんに怒られながらも……ゼス兄さんは相変わらずだなぁ。 「こう言うのは早い方がいいでしょ~~」 「……何か……」 したのだろうか……? 「その話なら私からしよう」 そう言って現れたのはオスカー兄さん。それからティグル兄さんも一緒に来たようだ。 「まさかアレがピスィカに接触してくるとはな」 うん……出会ったのは偶然だとしても、敢えて突っ掛かってきたのはレークの方だしなぁ……。 まさか故意に……と言うわけではないかも知れないが。 「まず、例のうちからの魔法小切手の横領の件についてだが、調査の結果あの一家と町長が不正に奪い取ったものだと判明したんだ」 町長まで絡んでいたのか……。まぁ、絡んでいないわけもないかもだけど。 揃いも揃って、魔法を使える俺を恐れながらも、魔法を使えるものの多い貴族たちの暮らしへの憧れが過ぎる。 「主にその一家の娘がブランド品や宝石を買い漁ったそうなのだが……その商人への便宜をはかった町長や、一家の主、夫人、長男もまた、それを黙認した挙げ句ご馳走や武具を買い漁ったらしくてな……同じく処罰対象になった」 長男……うん、その長男はレークのこと。オスカー兄さんもまた、俺をあの一家の一員から切り離しているが、しかしそれはチェルナマチカ家の一員と見てくれているからだから、あの一家とは違うよね。 「我々から突き付けた条件は、横領した金額の返済。既に購入したものは証拠として没収。それを売ったとしても横領した金額には到底及ばない。だから町長、一家の父親に関しては魔法鉱山で肉体労働」 うん……働き手の場合はこちらの世界でもそうなるのか。魔法鉱山だから普通の鉱山ではなくて魔法石や魔法に関する鉱物の採掘のはずだ。 「母親とその娘は修道院での労働……だったか、ティグル」 「えぇ、そうですよ」 修道院と言えば、管理はティグル兄さんも所属している神殿か。今は学園に出向しているとはいえ、所属元だから情報は掴めるのだろう。 しかし……平民でもそうなるのか……?よくある異世界ファンタジーの定番と言えば……王族や貴族の破滅した令嬢や夫人……だけども。 「まぁ一応、夫人の方はうちの放蕩父と一時ではあれど関係を持ってたからねぇ」 と、ゼス兄さん。そうか……どんな関係だったのかは知らないけど、貴族と交流があったから……。 「だから修道院で奉仕活動です。ま、それで返せる額ではないですが。娘の方はついでですね。でも……」 でも……? 「娘の方はだいぶ荒れたようでして」 うん……カロータならそうだろう。平民暮らしが板についていたとはいえ、宝石やブランドもの、貴族の暮らしに憧れていた。一時でもそういった金品を手にしたら……戻れなくなってしまったのだろうか……。 「あまりにも素行が悪い……と。ほかのものにも迷惑をかけたようなので、通常の平民の罪人扱いにしたのです。その上彼女は一番お金を返済しなくてはならない」 うん……確実に一番使ったのはカロータだろうな。 「それに……年齢的にも若いですからねぇ……高級娼館に出しました」 ん……? 「まぁ、客をとれる年齢になるまでは下働き。客をとれる年齢になれば、娼館で身を粉にして稼いでいただきます」 まさに言葉の通り、身を粉にすることになる。 「むしろ、高級娼館と言う国の公営の場で、客をとれるようになるまで待つだけ優しさだと思って欲しいですよねぇ。まぁそんな優しさお兄ちゃんは必要ないと思ってますが」 ティグル兄さんの笑みが……恐い。 「次問題を起こしたら……」 「えぇ。魔法鉱山行ってもらいますよ」 オスカー兄さんの言葉にティグル兄さんが即答する。肉体労働ができないであろうカロータが魔法鉱山にって……確実に嫌な想像しかつかないな……。 「まぁ、そんなわけで彼らには徹底的に処罰を加えていたわけですが……」 ティグル兄さんが口ごもる。 そう言えば……レークはどうなったんだ……? 「処罰を下した時、既に騎士団の見習いになってたからねぇ」 そしてゼス兄さんが口を開く。 「やったことが明らかになったこと、あとチェルナマチカ家の令息に加えた被害も含めて、騎士団で処罰してもらったよ」 騎士団で……? 「ゼス兄さんは今は学園に出向したりいろいろだけど、元々の所属は魔法騎士団。あそこは騎士団の中でも魔法を使える騎士が集まっている分団だからさ、騎士団の一部なんだよ」 そうハヤトが教えてくれる。 まさか、ゼス兄さんの所属……! 「まぁ、正式な騎士になるって推薦があっても、俺が反対しただろうけど……まだ見習いだったからね」 さっきレークは騎士団の騎士のように自分を誇示していたが……正式な騎士じゃなくて見習いだったのか……。 「それ、魔法騎士団の副団長が言うとしゃれにならなくないですか?」 そしてツェリンが漏らした言葉に吹き出しそうになる。え……副団長っ!? 「だからこそじゃん。本団で騎士にそぐわないものが一員になるなんて、阻止しなきゃいけないでしょ?」 確かに……そうかもな。レークは家や町長からはヒーローのように扱われていたが……抵抗しない俺を魔力があるからと一方的に殴ってきたやつだ。そんなのが騎士になったら……抵抗しない弱い立場の人間にも同じことを繰り返す……そう見なす方が自然である。 「んで、騎士団では永続的に正式な騎士になることは禁止したわけ」 つまり騎士団にいながらレークは一生騎士になれないと。 「その上で見習いとして一生こき使いながら返済金を稼がせることにした。見習いとは言え騎士団だもの。平民でも多少は稼げる」 まぁ、所属にもよるが、国家公務員や地方公務員のような立ち位置に当たるから。 「でも今回は……やらかしてしまったからねぇ。今度こそ魔法鉱山送りを突き付けたら、受理されたよ」 ケラケラと笑うゼス兄さんだが……容赦ないな。てか今度こそって……一度、提案していたのだろうか……?まぁ庇い立てする義理もないが。 「ま、生きて魔法鉱山を出られたとしても……再びピスィカに手を出したらまた魔法鉱山戻りになる。またピスィカに手を出したら容赦はしないから、安心しなさい」 「……うん、ありがとう、オスカー兄さん」 もう……俺を苦しめてきたあの毒のような一家はいない。 ――――けれど気になるのは……。 俺の本当の父親はどうしてあの母親と……?それだけが……まだもやもやとしていた。
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