【12】回廊での邂逅

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【12】回廊での邂逅

――――穏やかな放課後。 広々とした廊下の一廓で、窓から見える見事な庭園を眺めていれば、不意にひとの気配を感じて視線を向ける。 それは待ち人たちがいる方向とも違う。誰かと思ってみれば、予想外の人物だったことに驚く。 「……っ」 スティファニー!?どうしてここに……。 「……何よ……アンタ本当にしゃべらないのね」 「……」 それは……その。ツェリンは慣れたと言うか、普通に話せるけども、やはり兄弟以外だとあまりしゃべるのを躊躇してしまうというか。ハヤトたちがいればなんとか……だけど、今はひとりである。 ――――と、言うのも、現在ツェリンの実技補講に特別にハヤトが付き合ってるわけで……俺は終わるのを待っていたのだ。 「……一時期のツェリンみたい……」 え……?ツェリンがしゃべらなかったってこと……?今ではハヤトからうるさいくらいだとか言われてるのに。 「最初は……その、あのこだって大公令嬢だもの。王族の血を引く貴族令嬢だからその責任から……そう思ったわよ」 うーん……ツェリンは確かに王家の血を引くお姫さまなのだが……普段は全然そうは見えないから、イメージができないのだが。 「でも……」 うん……?何かあったのだろうか。 「ハヤトくんやフェリクス先輩とはよくしゃべるし……」 まぁうちに一緒に住んでいるからだが……謹慎させられる前から……なのだろうか? 「しかも私の名前……変に呼ぶし」 ほんとそれが謎である。 「私に何を隠してるのよ」 そっか……もしかしてだけどスティファニーがツェリンによく突っ掛かるのって……ハヤトが原因じゃなくて、ツェリンが何かを隠しているから……?普段の様子からして全く感じられないのだが。 「二卵性だけど……双子だから何となく分かるのよ」 思えば……ツェリンの方が表情がころころと変わるけれど、顔立ちはよく似ているんだもんなぁ……。 「アンタは何でしゃべらないの?人見知り?それとも無口……?」 ははは……容赦なく聞いてくるところもツェリンとそっくりだけどね。 「……その、魔法が……発動するかも」 そう、呪文になるようなものがないように注意しながら言葉を紡げば、スティファニーが少し驚いたような表情を浮かべる。 「ツェリンがアンタくらい簡単に口を割ればいいんだけど……」 スティファニーは少し考え込んだ後、ふぅと溜め息を吐く。 「恐れてるばかりじゃ魔力に負けるわよ」 「……っ」 それは……。 確かに……俺は恐れてる。自分の中にある魔力を。 「チェルナマチカ魔法侯爵くらい余裕で微笑んでなさいよ。案外何とでもなるものよ」 「それって……」 俺の本当の父親……? スティファニーも顔を知っている……いや、貴族だから、知られていても不思議じゃない。有名なひとらしいし。 「それじゃ。そろそろ行かなくちゃ」 そう言うとスティファニーは講堂の方向に向かってたかたかと廊下を駆けていく。 そんなに悪いコってわけじゃ……ない。むしろ、彼女も寂しいのだろうか。彼女も、ツェリンともっと分かり合いたいと思っているから……。 「兄さん、お待たせ」 「やぁっと終わりましたよ~~!」 暫くすれば補講教室から2人が出てきた。 「兄さん……?どうかした?」 「……いや、何でもないよ」 何か……何か引っ掛かる気がしたのは……気のせいだろうか。 「それじゃ、帰ろうか」 ハヤトに続いてツェリンと共に帰路に着くことにしたのだが……。 でもその時、ハヤトとツェリンに話していれば……スティファニーを引き留めていれば、何かが変わっただろうか……? しかし引き留める理由もない。 一体どうすることが、正解だったのだろうか……。
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