【13】学園長室

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【13】学園長室

――――翌朝のことである。 学園長室に呼び出されていたツェリンが教室に戻ってきた。学園長ってツェリンのお父さんだよな……?身内の話だろうか。 心配しながらハヤトと待っていたのだが。 「ツェリン、話は大丈夫だった……?」 「……それが……」 どうかしたのだろうか……?いつもの元気がないような……。 「その、スティファニーが昨日から屋敷に帰っていないと……お父さまが」 え……!?スティファニーが……!?そんな夜遊びするようなコにも見えないのに……。 「その、私も何か知らないかと……お父さまに聞かれて……。でも、私も何も……」 そう……だよな……? 「昨日のいつからいなくなったとか……分かる……?」 「えっと……放課後、取り巻きの子たちにひとりになりたいと別れたあとは……取り巻きの子たちも知らないそうなんです……」 あれ……?そう言えば……昨日スティファニーに会った時、いつも一緒の取り巻きの子たちがいなかった……?違和感はそこだろうか……?それに、ほかにも……。 「あの……もしかしたらスティファニーに最後に会ったのは……俺かも」 「兄さん!?いつの間に……!」 「ええぇっ、ピスィカがですか!?」 「うん……ツェリンたちの補講が終わるのを待ってる間に……スティファニーに会ったんだ」 「その時、何か言ってませんでしたか……っ!?」 普段はいがみ合っているように見えて……ツェリンはどこか必死である。やっぱりこの姉妹は……仲が悪いわけじゃなくて、ツェリンが抱えている秘密で単にこじれているだけなのか……? 「その、魔法の話をしただけで……あ、でも」 あの時の違和感が分かったかも。 「スティファニーは聖堂の方へ行ったんだ。まるで誰かと待ち合わせしてるように……」 『そろそろ行かなくちゃ』と、彼女は言っていた。そこに何かがあるように。まるで誰かが待っているように。 放課後は催しでもなければ、それほど近付く生徒はいないはず。昨日は閑散としていたから催しがあるようにも思えなかったのだ。 それなのに、彼女は……何をしに行ったんだ……? 「聖堂……っ。補講教室の近くのあそこですね」 「……その、ツェリン」 「ピスィカ……?」 「ごめん……もし、ツェリンたちが戻ってきた時に……言っていれば……」 「……いいえ、多分その時聞いていたとしても、スティファニーが何の用だ~~って文句つけてただけですよ。ピスィカのせいじゃありません。だから謝らないでください」 「ツェリン……」 「それに……そうとなれば、お父さまにその時のことを知らせなくては!ピスィカも来てください!」 「だけど……俺……」 「大丈夫だよ、兄さん!ぼくも行くし」 それは頼もしいのだけど……学園長ってそもそも王弟だよな!?そんな偉いひとと会うの……大丈夫だろうか……? ※※※ ツェリンに手首を引かれながら入った学園長室には、部屋の奥にいかにもな高貴そうな男性が座っている。それから金髪に青い瞳の青年がその側に立っていて、さらにはオスカー兄さんまでいる!? 「……ピスィカとハヤトまでどうしたんだ?」 そしてオスカー兄さんが駆け寄ってきてくれる。 「あの……!ピスィカが昨日のスティファニーの最後の目撃者なんです!」 ツェリンが叫ぶと、奥に座っていた男性がガタンと椅子を倒して立ち上がる。 「それは本当か……!」 ひぅっ!?ちょっと恐い……っ!?ついついオスカー兄さんに飛び付いてしまい、慌てて離れようとすれば、何故かオスカー兄さんの腕にぎゅうぅっと引き寄せられた。ふぇ……? 「学園長、弟が脅えているだろう」 「いや、それは済まなかったが……しかしこちらはスティファニーが行方不明なんだ……っ。しかも……また……っ」 また……? 「さすがに王家の血筋を引く……王弟の息女の行方不明……大々的に捜索に当たれば騒ぎになる。それに……ツェリンとスティファニーは2度目だ」 金髪の青年が告げる。2度目って……ツェリンもなのか……!?しかしこの青年は……学園の生徒だよな……?ちらりとハヤトを見れば伝わったのだろうか……? 「あちらは王太子殿下だよ。顔、知らなかった?」 お、王太子殿下ぁっ!?つまりはツェリンたちの従兄であるが……その前に本物の王家の直系だなんて……雲の上のひとじゃないか……。しかも俺は育ちが育ちなので、王太子殿下の肖像画とかも何も見たことがない。こちらに来るまで文字すら知らなかったのだ。 「そうだな……、だからこそ早く見付けなければ……そうだ、スティファニーの目撃の件だが」 「ピスィカがスティファニーを見掛けたのはツェリンの補講が行われていた時刻。その後誰かと約束しているかのように聖堂に向かったそうですよ」 ハヤトが俺のために気を遣って代わりに答えてくれたのだ。 「ふむ……聖堂か……早速何か手がかりがないかどうか探すぞ」 「手配します」 王太子殿下は頷くと早速学園長室を飛び出していく。 「しかし君は……」 そして学園長が俺を静かに見据える。な……何だろう……? 「ユニウェールとはだいぶ違うようだな……」 ゆ……ユニウェール……?どこかて聞いたような……。 「学園長、父みたいなのが何人もいてもいいので?」 オスカー兄さんの言葉で分かった。そうだ……ユニウェールシュターシュ・チェルナマチカ……俺たちの父親の名である。 そして学園長は『それもそうだ』と溜め息を漏らす。 「しかし……ツェリン」 「……お父さま……?」 「スティファニーの行方不明……もしかしたらお前も危険に巻き込まれるやもしれない。お前のことはオスカーたちに引き続き任せる。警戒しなさい」 「警戒って……何で私じゃないんですか」 ふと……ツェリンが漏らした言葉に学園長が口ごもる。 「血筋だけなら同じ……希少価値は私の方があるはずです」 「それでも、スティファニーもお前も大切な私の娘だ。どちらが行方不明になろうと、私は心配になる。できれば……お前たちが平穏に暮らせれば……」 「私には……無理ですよ」 ツェリン……? 「だが……チェルナマチカ家なら……」 「お父さまのバカ……!」 ツェ……ツェリン!?呆然とする学園長をよそに、ツェリンがダッシュで学園長室を飛び出していく。 「ツェリン!」 「追うぞ!」 オスカー兄さんに続いて、俺もハヤトと一緒に学園室を飛び出した。
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