【15】アジト

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【15】アジト

ここは……どこだろうか……? 「……っと、起きなさいよ……!」 「……っ」 瞼を開いた眼前に入ってきたのは、似ているがよく見ればツェリンよりも淡い色の髪色だった。 「スティファニー……?」 どうして彼女が……ここに。 彼女は身体を縄で縛られていて……俺も……。 「そうよ。何であんたまでこんなところに」 「その……さらわれた、みたい。あの……ツェリンは」 「まさかツェリンまで!?……でも、ここにはいないわよ。ここに投げ込まれたのはアンタだけ」 「……そんな……っ」 ツェリンは一体どこに……。 「でもスティファニーこそどうしてここに……」 「……呼び出されたのよ」 「誰に……?」 「……アンタ……私とツェリンが誘拐されたことがあるって話……知ってる……?」 「ちらりとは……でも、詳しくは……」 「……私とツェリンが12歳の時よ……私とツェリンは誘拐されたことがある。私が知ってるのはそれだけ。多くは私たちが王家の血を引くからと、国家機密として伏せられているわ」 ん……?今の話、おかしくないか……? 「何で……スティファニーも被害者では……?」 誘拐された当事者なのに、事実しか知らないと言っているようなものではないか……? 「そう……なってる……でも、私には記憶がないのよ。医者はショックのせいって言っていたけど……それだけじゃないの」 「どういうこと……?」 「私は……前にもあったのよ……記憶がすっぽりと抜け落ちていたこと。でもその時何があったのか……何も思い出せない。知ってるのは多分……ツェリンだけだわ」 それがツェリンが隠している秘密と関係があるのか……? 「私はその謎を……知りたかったの……。だから昔、うちに仕えてたって元使用人をあたってたんだけど……見事にこうなったわけ。そもそも、学園内で待ち合わせって時点でおかしいと思わなかった自分に腹が立つ」 「スティファニー……」 そうまでして知りたかったのは……スティファニーにとってもツェリンは大切な姉妹だったからだろうか。 自ら行動するようなところは本当に姉妹そっくりなんだから。 「とにかく……魔法で外に……」 ステータスさえ使えれば、兄さんたちに今の状況を知らせられる。 「無駄よ。魔法を使えないように魔法具で拘束されている」 スティファニーが後ろで手首をカンカンと鳴らす。それは俺の手首に今ついている枷と同じものだろう。 「でも……おかしくない?」 「何がよ……?」 「魔法具なのに……魔法を封じるの……?」 「そう言う魔法石があるのよ。それが埋め込まれた枷ってこと」 「……それなら……枷を嵌められた俺たち以外なら魔法を使えるってことかな」 「そりゃそうだけど、ここには私たちしかいないわよ……?」 「いや、風とか、うーんと……土とかで」 「……アンタ何言ってるの?動かすのは私たちでしょうが」 「動くのは風の方だよ。ほら……」 使うのは俺じゃないから、名乗りがない。少し不安だが、しかし……。恐れちゃいけない。 「あの、スティファニー」 「何……?」 「あの、もしかしたら恐い思いをさせるかもしれない」 「それなら今現在進行形じゃない。今、この状況よりも恐れるものなんてないわよ。そもそもね、アンタの父親の魔法を一度でも見たのなら、魔法で恐れるなんてバカバカしくなるわ」 俺たち兄弟の父親は本当に、一体何をやったのだろうか……? だけど……もしもあのひとがスティファニーのように恐れることがバカバカしいと言い切れるひとだったならば……父親の側を離れることなど……なかっただろうか……?何だかそんな気がしてきたのだ。とにもかくにも……スティファニーが一緒なら心強いな。 「それじゃ……」 ゆっくりと深呼吸をする。 『ヴィハール・ヨッテ・ヴィハール』 そう言葉を囁けば。ふわりと何かが囁き返してくるような気がする。その瞬間、ぶわりと風が俺たちを包み込む。 ースティファニーは傷付けないでー その念じた言葉に答えるかのように、風が嗤う。そして手首から枷がカランと転がり落ち、俺たちを縛っていた縄が外れると、静かに風が去っていく。 「うそ……ほんとに……っ」 スティファニーの手枷も外れたのか、不思議そうに自由になった手首を見やる。 「ステータスで兄さんたちに場所を知らせる……っ」 ステータスを展開し、兄さんたちに信号を送る。 「早くツェリンを探しに行かないと」 「もちろんよ!」 立ち上がれば、スティファニーが魔法で剣を構築する。 「すごいね……」 「魔力を封じられれば役に立たないけどね」 スティファニーらそう笑えば、鍵のかかった扉を魔法剣で破壊した。 「何事だ!?」 外に見張りがいたか……! 「ヴィハール・ヨッテ・ヴィハール!」叫べば周りから風圧が舞い起こり、見張りの男たちを吹き飛ばす。 「……ゆ……ユニウェール……?」 え……?吹き飛ばされたひとりがそう呟いたのが聞こえた。しかし今はツェリンだ。 「メッレ・ヴァジーナ・ツェリン・ルシアーナ!」 風が抜け、方向を示す。 「こっちだ!」 「ほんとアンタ、どうなってんの?まぁいいけど」 それで済ませてくれるのは、スティファニーとツェリン姉妹ならではかもしれない。 そして風が突き抜け、破り開けた扉の向こうには……。 「ツェリン!」 「ツェリン、無事!?」 その部屋の奥に寝かされているスティファニーの片割れの姿を捉え、中に踏み込む。 しかしその瞬間、俺たちの身体を何かが拘束する。これは……魔法の拘束……っ!? 「まさか拘束具を破壊するとは」 思えば、ツェリンが拘束されている場所に見張りがいないはずはない。むしろ、こいつらの目当てがツェリンだったとしたら……そこに親玉っぽいのがいても不思議じゃない。 「だが、お前たちが助ける価値がこの娘にあると思うか」 「何言ってんのよ。価値のありなしなんて関係ないわ。私の片割れ、返してちょうだい!」 「ふふ……お前はきっと知らぬのだろう。だから我々に騙されて拐われるのだ」 「それは……」 スティファニーは知りたいと探っていたから。 「約束通り教えてやる。この娘はな、稀有な能力……言霊を使えるのだよ。その力は我々にとっても必要なもの。この王国を影から支配することも容易い……!」 ハッハッハッと、親玉が嗤う。 言霊って……西洋ファンタジーに不釣り合いな響きに聞こえるのは気のせいだろうか……? 「相手の名を呼び、命令することで服従させることができる……昔東国で知られていた稀有な力」 うん……和風な国があるようだし、そこ由来なら。しかし……どうしてそれがツェリンに……?王家か、それとも大公夫人のどちらかにその血が含まれていたのだろうか。 だけど、俺のイメージする言霊よりは随分と攻撃的なような……いや、コイツらが都合のいいところだけ切り取って話しているだけかもしれないが。 しかし……相手の名……もしかしてツェリンがスティファニーの名を呼ばないのにはそれが関係しているのでは……?対する俺たちはと言えば……うん。チェルナマチカって色々とチートだからツェリンが気にしなくていい何かを持っているのかもしれないな……? そう考えれば学園長のあの言葉も分かる。でもツェリンはきっと……学園長たちと家族でいたかったんだ……。だから、ツェリンはあの時怒ったんだろうな……。 「お前……昔の記憶がないのだったな」 そして親玉がスティファニーを見て嗤う。そう言えば……。 「お前もまた、この娘によって言霊の力で忘れさせられているのではないか……?どうだ……自分の記憶すら忘れさせてしまう……この娘の力は恐ろしかろう?」 親玉が嗤う。 そうか……ひとは自分にないものを持つものを恐れる。レークやカロータたちのように。魔力を持たない彼らは魔力を持つ俺を恐れたのだから。 「はぁ?知らないわよ、そんなの」 「は……?」 しかしそんな親玉の言葉すら、スティファニーは弾き飛ばしたのだ。 「私の記憶をその力で忘れさせたんなら、それはそうね。ツェリンに怒るけど。花より甘いもの、平気で廊下は走るし、使える魔法を使えばいいのに、ポンコツ魔法しか使わないポンコツ、恐れるわけないじゃない」 ツェリンはわざと使えない魔法を使っている……?それも言霊と言う能力のせいなのか……?スティファニーはツェリンのポンコツ魔法を嗤っていたが、それも『ちゃんと使えるのに』と言う怒りからだとしたら。ちょっとツンデレ……なのかな……?そう言うところもあれど、やっぱりスティファニーはツェリンのことをよく観てるのだ。だからツェリンが秘密を抱えていることにも気が付くんだろうな……。普段あんなに屈託なく笑い、明るいツェリンに秘密があるとか、思わないから。 「アンタたちが何にツェリンを使おうとしてるのか分からないけど、返してもらうわよ!」 「貴様ら……自分たちの状況が分かっていないようだな……!」 『うぅ……っ』 拘束が強まる。うぐ……このままじゃ……っ。 『ヴィハ……』 調べを紡ごうとした時、口に何かが巻き付いて来る。 「そうか……腐ってもユニウェールの息子か……!魔法を封じても魔法を轟かせる……!化け物が……!」 化け物……俺の父親もそう呼ばれて来たのだろうか……? 「そうかそうか、それは褒め言葉として受け取っておこうか!」 その時響いた声は初めて聞くはずなのに、どこか懐かしいと感じたのは……どうしてだろうか……? その瞬間親玉が驚愕し、そして俺たちの拘束が解かれ、ふわりと優しい風に包まれながら着地した。
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