【16】ユニウェール

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【16】ユニウェール

突如現れたその男を見て、親玉が驚愕している。 「き……貴様はユニウェール!」 え……っ、このひとが俺の父親……思えば、髪の色や目の色はオスカー兄さんにそっくりで……あ、俺もか。 しかしクールなオスカー兄さんとは対照的に、その含んだように微笑む表情はゼス兄さんに似てるとふと思った。 「やぁ。そんなに驚くことかな?このルース王国で悪事を働く以上は、ぼくが出てくるのは当然だろう?」 「……ぐ……っ」 「さて。君らが拐ったお姫さまを返してもらおうかねぇ」 「バカめ!我々がお前の襲来を予期してないとでも!?3年前とは違うのだ!」 3年前って……まさか。 「ふむ……3年前の大公令嬢誘拐事件のことを言ってるのかな……?あれの犯人どもは謀反を企てた重罪人。全部処分したはずなのだけどねぇ……?」 処分……?何か引っ掛かる言い方だし……このひと……何故ずっと……面白いことでも話しているように……笑みをたたえているのだろう……? 「生き残りがいたんだよ……ふふっ」 親玉が嗤う。 「ふむ……じゃ、お前も殺しておかないと」 「は……っ!さっき言ったことを忘れたか!お前への対策は講じてある!」 「魔力を封じるくらいじゃダメだと思うけどね。君たちに封じられる魔力じゃないし……ぼくは自分が魔力を封じられても魔法、使えるからね」 あれ……?それってさっきの……?このひとも使えるってことは……チェルナマチカの魔法であることには変わらないのか……? 「コイツさぁ……っ!」 親玉が俺に迫る。まさか……人質……!?もしかしたらスティファニーを先に拐ったのも……人質……っ!?スティファニーは紛れもなくツェリンの一番の弱味である。 ツェリンの力を利用するために、拐ったのか……!? しかし男が俺に迫ろうとした時、物凄い轟風が俺の後ろから吹き抜けていく。それは俺を傷付けることはないが……男を無惨に引き裂く風の刃となる……! 「や……やめ……っ」 これじゃ、昔と何ら変わらない……!やっぱり俺は……変われないんだ。 「スゼル」 俺の父親……ユニウェールさんがその名を口にすると、風がピタリと止んだ、風に引き裂かれていた親玉ががっくりと崩れ去った。まだ……生きてはいる……よね。 「あれに人間のような感情はないからねぇ。呼ばないと止まらなくなる。お前はまだ人間としての性質を失っていないのだから、諦めることはないよ」 ユニウェールさんが俺を見てにこりと微笑む。それってどういう意味なのだろう……? 「名はオスカーにでも習うといい。あー、それと、お姫さまをまず助けないと王弟にドヤされるねぇ~」 それって学園長のこと……?しかしドヤされると言いつつも、ユニウェールさんは相変わらずへらへらしながらツェリンの元へと歩を進める。 「ちょ……待ちなさいよ!魔法侯爵!」 やっぱりスティファニーは行動派なのか、すっくと立ち上がりユニウェールさんを追う。 ここは……もう大丈夫だよね。 親玉も動けないようだし。 俺もスティファニーの後に続けば、ユニウェールさんがツェリンの身体に手を翳せば、不思議な光が溢れる。 これって治癒魔法ってやつなのだろうか……?それとも……あ、違う。 眠りを……状態異常を解くやつか。 「……っ」 そしてツェリンが瞼を開ける。 「こ、こは……」 「ツェリン!バカ!ほんとバカなんだから!」 す……スティファニー!? 「ちょ……っ、目覚め際にいきなりなんなんですか!!」 案の定ツェリンが激昂するが。 「アンタのこと、全部聞いたわよ。親玉っぽいのにね」 「……っ」 ツェリンがスティファニーの言葉に瞠目する。 「……それは、」 「アンタの異能とか、そう言うのはこの際どうでもいいわ!」 「どうでもいいってね、何言ってんですか!!」 「私が怒ってるのは……アンタ、私に内緒で記憶を消したんじゃないの!?白状なさい!私が怒ってるのはそのことよ!逃げたらアンタの好きな城のシェフ特製ロイヤルシュークリーム……全部私が食べるわよ!!」 「ひぐ……っ、あ、アレを!?き……キチクううううぅっ!!!」 ツェリンが背中を反射させるようにがばりと上半身を起こす。 なんと言うか……さすがは姉妹。スティファニーはツェリンが折れるものをちゃんと把握している。今までそれを出さなかったことは……手加減していたのか……それとも、その覚悟をとうとうスティファニーも決めたのか。 そんな姉妹のやり取りに何だか微笑ましくなってしまった……その時だった。 「ぐ……お前らぁっ」 お……親玉!?まだ動けたのか!? 「こ、コイツ……っ!」 咄嗟にスティファニーが魔法剣を顕現させようとするが……それよりも速く……。 「はい、そこまで~~!動くと危ないよ~~?」 親玉の眼前を塞ぐように剣が落とされる。その剣の持ち主は……。 「ゼス兄さん!」 「やぁ、無事みたいだねぇ。あのひとの魔力の残滓もあるし、大丈夫だったと思うけどねぇ」 あのひと……? 「兄さん!無事みたいでよかった!あ、ついでにツェリンもね」 そう言って抱き付いてきたのはハヤトだ。 てか、ツェリンがついでって……案の定、ツェリンが「なんですとーっ」、と抗議している。 「怪我はないようですね」 そしてティグル兄さんもぽふんと頭に手のひらを乗っけてくれる。 「さて、アジトの残りのやからも騎士団を動員して捉えさせている。残りはコイツだな」 そしてオスカー兄さんが親玉に何か魔法具のようなものを取り付け拘束しており、フェル兄さんがそれを手伝っている。 「つーか、まだ息があるとは……あのひとが手加減したのかな……?」 ゼス兄さんが剣を収めながら首を傾げる。騎士団がここにも駆けつけ、親玉を連行していったので、俺たちもゼス兄さんたちの元へと歩み寄る。 「あのひと……?」 「ん?会わなかった?ユニウェール……俺たちの父親ね。まぁ、ピスィカも好きに呼ぶといいよ。あのひと特にこだわらないから」 こ……こだわらないって……いいのだろうか……?俺は……ユニウェールさんとだけ……。 「えー、でも前にぼくに『ぱぱ』って呼んでくれないのって言ってきたけど――――」 そのハヤトの言葉に、一同で吹いてしまった。スティファニーとツェリンまで。 「さてと……無事にツェリンとスティファニーちゃんも保護して、ピスィカとも合流できたわけだし……帰りますか」 ゼス兄さんが頷く。 「あぁ、学園長も待ってるからな」 オスカー兄さんの言葉にスティファニーとツェリンが2人してしょんぼりしてたのだが……。 「帰りはさすがに馬車だから、積もる話があるならその中でしなさい」 オスカー兄さんの言葉に、ツェリンとスティファニーがゆっくりと頷く。 「リラで飛べば一瞬だよ?」 そうゼス兄さんが告げるものの……。 「バカ、空気読め」 フェル兄さんにピシャリと怒られていた。
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