【17】帰路

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【17】帰路

4人乗りの馬車には、俺とハヤト、ツェリンとスティファニーが掛けている。 そしてツェリンがぽつり、ぽつりと口を開く。 「最初の記憶は……7、8歳くらいの頃だったと思います。まだ誰も言霊の力に気が付いていなかった時。スティファニーと私は庭でかくれんぼをしていました。私はちょっとした悪戯のつもりで、ふざけてスティファニーに言ったんです。『いいよ』って言うまでそこで待っていてと。スティファニーは『分かった』と言いました。私は……こっそりと屋敷に戻って、スティファニーが気付いて怒って私のところに戻ってくることを……待っていました。あまりにも来ないものだから、私は寝落ちてしまって……気が付いたら夕方です。屋敷内は大騒ぎで……。そしてスティファニーはかくれんぼをしていた庭で……見付かりました」 「……でも、それが言霊の力で起こったこととは言え……そんなこと、あったかしら」 「……スティファニーは……お父さまに見付けてもらって気が付くまで……そこにいたこと、どうしてそこにいたのかを……覚えていなかったんですよ。ただ、私と一緒に遊んでいたのを最後に……。私は真実を言えませんでしただからこそ言霊の力の発見が遅れたんです。そして……2回目がその2年後くらい……でしょうか」 そりゃぁ……言いにくい、よな。むしろツェリンも恐かったんだと思う。その気持ちは俺も分かる。突然訳の分からない力が発動するんだ。ただ日常の会話を述べただけで魔法が暴走する。理解できない未知の力を前にしたら……それも、自分自身の手からそれが放たれたのなら。 「……私がスティファニーに、お気に入りのぬいぐるみを貸してと言ったら……スティファニーはまるで魂が抜けたように渡してきました。あんなに……大事そうにしてたのに、あっさりと……。その時です。明らかに何かがおかしいと気が付いたのは。そしてお父さまも私の様子がおかしいと気付いて……話し合いの場をもうけてくださって……。お母さまが東国の血を引いていたから……言霊のことも知っていました。それでようやく明らかになりました。そしてスティファニーはその時のことも覚えていなかった。その……さらにお父さまに頼まれ招かれたユニウェールさまは、私たちが双子で、他よりも強い結び付きがあるかりだと仰いました」 ユニウェールさんが……っ!?思えば、国でも随一の魔法使い……。そのような事態に呼ばれることも不思議じゃないのだろう。 そしてやはりツェリンは東国の血を引いていたんだ。 「そして……この力は名前でより、強く縛るのだと」 あ……だからツェリンは、双子で、取り分け強く能力が発言してしまう相手のスティファニーのことを……。 「それが……私たちが前に誘拐された時のことにも関係してるの?」 「……スティファニーと私が拐われたのは、何処かで私の力のことを嗅ぎ付けた反王政派に拐われたからです。私と一緒にいたから……そしてスティファニーは……とても脅えて泣いていたから……私は初めて自分の意思で使ったんです。誘拐された記憶は全て忘れるようにと」 「……それで……」 スティファニーが俯く。スティファニーは確かに怒っていたが、しかし同時にツェリンがどんな気持ちで『自分の意思で』使ったことも感じ取っているのだろうか。 「バカね」 「……スティファニー?」 「そんな私が号泣するような記憶、消すんじゃないわよ」 「でも……っ」 「私よりアンタの方が泣き虫なんだから」 え……ツェリンが泣き虫には見えない……いや、スティファニーの方が強そう……だけども。 「今度は一緒に覚えてとくから。異能で消したりなんてしたら承知しないわよ!」 「……私のこと……軽蔑しないのですか?」 「する訳ないじゃない。アンタがずっと内緒にしてたことは……怒ってるけど」 「……それは、その……」 「だからもう変な名前で呼ばない」 「でも、もしまた……誤って発動したら……っ」 「お父さまと一緒に侯爵の首根っこ掴んででも何か対策ないか吐かせるわよ」 その言葉にはハヤトが吹き出していた。 「アンタがびびってたら、ますます自分の力に負けるでしょ。もっと自分と……私を信じなさいよ」 「……スティファニー……変わらないですね」 そう言うと、ツェリンが優しく微笑んだ。 「アンタもでしょ」 そう言ってスティファニーも笑みをこぼす。 帰路の馬車の中では、姉妹の和やかな笑い声が絶えなかった。
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