魔法使いの兄弟

【19】エルドスゼレム

「改めまして、精霊王……と言っても精霊たちのリーダー……代表のようなものよ。エルドスゼレムと言うの。エルドで構わないわ」

「……エルド？」

「そうよ。ユニウェールにそっくりなのに、ユニウェールとは違って素直なところは新鮮ね」
そ……そうなのだろうか……？どこか掴めないひとのように感じたけれど。

「それに、スゼルたちが世話になったわね。とは言え……あのこたちの取った行動はあなたにとって人間から隔絶されるような行為だったわね」
「それは……」
スゼルたちが知らず知らずのうちに俺を守ろうとしていたことは分かった。それと、自分の名を知らず、自分の魔力で魔法を使うと述べなかったから、スゼルたちは俺の言葉にその力を存分に……時にはそれ以上に暴走させたのだ。レークたちの場合は確実に俺に敵意があったのも影響していたのだろうか。

「でも、それだけじゃない」
エルドがまるで俺の考えを呼んだかのように語り掛けてくる。

「時に隔絶をも望んでいたとも言えるわね」
「……えっ」

「精霊に愛されるものだから、こちら側に来て欲しい……ともね。でも、それは無理だわ」
「……断言、できるんですね……？」
「そうね。どちらかと言うと思考が精霊寄りなユニウェールですら、こちら側に来ることはないのだもの」
ユニウェールさんの思考が……精霊寄り……？ふと抱いた奇妙な感覚にはそれが関わっているのだろうか。

「けど……ユニウェールが珍しく怒ったものだから、スゼルたちも反省はしてるのよ」
怒った……？そんな素振りは見せていなかったが……人知れず……？
それにどうしてか、ユニウェールさんはいつの間にか姿を消していた。ゼス兄さんご残滓のことを言わなければ、それにすら気が付かないほどに……違和感なく。

「それで、ここに招いたのはお詫びもかねてよ。だから私たちにできることなら協力するわ」

「協力……」
精霊と取り引きみたいなことは……大丈夫なのだろうか？

「ふふ……っ。そんなに警戒しなくていいのよ。変なことしたら、またユニウェールに怒られてしまうわ。ユニウェールの目があるかぎり、大丈夫よ」

「……その……それなら」
それでも守られている……そんな感じはするのだ。どこか掴めないひとだけど。

「あの、ツェリンの言霊の能力をどうにか……抑えることはできませんか？」
チェルナマチカが精霊の加護に守られているように。

「そうね……あれはもともと……ひとには過ぎたものだけど……。昔東方の巫女に願われ、神から授けられたもののひとつよ。だいぶ血も、力も薄れたけど。今もまだ……時折当時の力が隔世遺伝することもあると言われるの……。私たちはそう言うのを多く見てきたわ」
チェルナマチカが精霊の加護に守られているのなら、その分、何から守ってきたかを彼女たちは知っているはずだ。

「いいでしょう。それが愛し子の願いならば」
エルドがふわりと微笑むと、エルドが掲げた掌から光が浮き上がる。

「それは……」
「私たちが代々に渡り授ける力ではありませんが……一代だけ。ピスィカと彼女が共に平穏を望む限り、精霊の力が彼女自身の異能の効能を抑えましょう。チェルナマチカに授けているものの、逆を行うのです」
「その、エルドたちに負担は……」
「ピスィカは優しいのですね。涼しい顔をして酷使しまくるユニウェールとは大違い」
あのひと……精霊酷使してんの……？

「では優しいピスィカのために」
エルドがふぅっと指で球体を上にはねあげれば、それが宙高くに舞い上がり、そして何処かへと……いや……ツェリンの元へと行ったのか。

「これでツェリンも家族と暮らせるか」
「少し、寂しいのですか？」

「……っ」
エルドには全部お見通し……なのかな。

「でも、学園でも会えるし……その、今度はスティファニーも一緒に、2人を晩餐に招けばいいと思う」
「……そうですわね、2人で」
そう言うとエルドがまたね……と手を振ってきたかと思うと、次の瞬間には屋内に戻っていた。

「ピスィカ！？大丈夫か！」
そして真っ先にオスカー兄さんに声をかけられた。俺がエルドのところに行ってたの……気付いたのかな……？

「大丈夫！それに……ツェリンはもう……大公邸で暮らせるよ」
「……それは……」
エルドと話したことをオスカー兄さんに伝えれば、少し驚いたようだったが、後日学園長立ち会いの元、ツェリンの異能の発現を確かめてみたものの、まるで最初からそうだったかのように、スティファニーに無茶なお願いをして、スティファニーに怒られると言う凪がれになり……。
その異能が機能しなくなっていることが明らかになった。

だからツェリンは大公邸に戻れることになった。少し寂しいけれど……今度はスティファニーも一緒に晩餐に招待することになったから……楽しみである。