【20】魔法使いの父親

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【20】魔法使いの父親

ユニウェールさんと……あの母親は一体どこで、どうやって出会ったのだろうか……? ふと、そのことが頭を過る。ユニウェールさんはあちらこちらを放浪しているとは聞くが……平民だった母親とどうやって出会ったのか。 精霊の知識を記した本を書庫でめくりながら考えていれば、書庫に現れた人物がいることを知らせるようにスゼルよ風がそよいだ。 「おや、お勉強かい?」 そう、どこか含んだような笑みを向けて来るのは……、もちろん。 「……ユニウェールさん」 「……パパって呼んでくれないのかい?」 ま……マジで言ってきた!? 「その……お……お父さん……?」 「何かな?」 普通に答えてはくれるんだ。 「あの……俺の産みの母親とは……どこで出会ったんですか?」 「……そうだね。何処だったか」 何故あやふやなんだ。 「ぼくはこの国の中なら何処へでも気の赴くままに行き来するからねぇ。陛下に呼ばれない限り」 そりゃぁオスカー兄さんが代理を務めているとはいえ……王さまから呼び出されたら参上しないわけにはいかないよな。 「でも男女の恋愛なんてそんなものかなぁ。出会って盛り上がって……」 うーん……このひと、ほんとに大丈夫だろうか……?貴族だもの。一夫多妻も珍しくない世界ではあれど、オスカー兄さんに聞く限り、俺たち兄弟を認知はして、魔法侯爵家の一員としてはいるものの……このひとは誰とも結婚していないのだ。 「あぁ……そうだ。うちの避暑地で働いてたメイドだった」 不意に思い出すにしても不意すぎる。 あのひとが……チェルナマチカ家の避暑地でメイドを……出稼ぎってことなのかな。 「子どもが出来たって聞いたから生まれたら引き取るとは言ったんだけどねぇ。彼女は自分で育てると言って故郷に帰ったよ。まぁ、結婚する気はないからいいけど」 それはそれでどうかと思うが。 あのひとが俺を引き取ったのは……あのひとの意思。それなのに魔力があるからと冷遇して、脅えたのは……勝手すぎると感じてしまう。最初からこちらに引き取られていたら、もう少しましなら子ども時代を送れただろうか。 ――――いや、今が幸せだから、過去は振り返りたくないな。 「結婚はしないの?」 「直球だねぇ」 ハハハっと、父さんが笑う。 「3回目くらいで諦めたかな……?」 3回目……ティグル兄さんが生まれた時でってことか……? 「どうして……」 放浪体質のせいなのだろうか。 「誰しも、自分にはない力は恐れるものだよ」 稀有過ぎる魔法の才が……このひとを孤独にしたのか。 「でもピスィカはぼくと違って恵まれたね」 「えっと……その、兄弟がいることは……嬉しいです」 このひとの結婚観は置いておいて。兄弟がいることはとても頼もしい。 「そう?それは何よりだねぇ。でも、それ以外も」 それ以外とは……? 「晩餐会楽しんでおいで」 「あ……今夜の……」 今夜はツェリンとスティファニーを招いているのだった。 「あの……父さんは一緒に……」 「んー、オスカーにお説教されちゃうから御免かな?」 完全に自業自得な気もするが、それ。 「それにそろそろゼスに見つかるかもしれないから、またねぇ」 「え、ちょ……っ」 不意に風に紛れるように姿を消してしまった父さんに手を伸ばした瞬間、書庫の扉が開いた。 「あ、逃げられたか」 苦笑しながらゼス兄さんが姿を見せた。 「あの……ごめん、呼べばよかった……?」 「いや、いいよ。いつものことだからね。必要な時には不思議と来るから」 そう……かもな。あの時も助けてくれた。多分父さんがスゼルを呼ばなければ、俺はまた昔のように口を閉ざしたかもしれない。 「さて……と。ピスィカもそろそろ晩餐の準備に加わる?」 「……うん……!もちろん……!」 「そう言うと思った。おいで」 「うん、ゼス兄さん」 ゼス兄さんの手を取り、俺もツェリンたちを迎えるために準備に向かうのだった。 【完】
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