【3】王都。

1/1
前へ
/20ページ
次へ

【3】王都。

――――王都 「いやぁ、やっぱり王都はいいよねぇ。田舎の美味しい空気も好きだけど、帰ってきたって感じがして」 そう言われても。俺にはこの世界に帰る場所などなかったし。 「ほら、あれがチェルナマチカの屋敷のひとつ」 え?や、屋敷……?しかもひとつと言うけれど。リラの上から見える建物はいくつかある。 どれだろう?と首を傾げれば伝わったのか、ゼスさんがニカッと笑う。 「これ全部」 「……っ!?」 はいぃぃぃっ!?俺……何か場違いなところに来たりしてないよね……!? ゼスさんは敷地内の開けた場所にリラを下ろすと、さくっと飛び降りる。ひぇっ。どうやって降りよう……。 しかしどうやって降りるかの問題はすぐに解決した。 ゼスさんが俺の腰をひょいっと掴んで降ろしてくれたのだ。 「リラは戻っていいよ」 そうゼスさんが言えば、リラは鈴の音のようなキレイな鳴き声を上げると、近くにある頑丈そうな建物に一匹で向かっていく。 「リラはあっちの竜舎で生活してるんだよね。家族もいるし」 それって竜の家族だろうか……。て言うかチェルナマチカの敷地内に竜舎まであるなんて。やっぱり只者じゃないよね……? 「ピスィカはおいで」 「……っ」 こくんと頷こうとすれば、不意に身体が浮き上がったのが分かり、そしてゼスさんに抱えられていることが分かった。 これ……まさかお姫さま抱っこおぉっ!?初めて会った異母兄……とは言え……お姫さま抱っこはさすがに……と、言おうとして諦めた。 「ちょっと飛ばそうか」 そう言った瞬間、ゼスさんが地面を蹴り上げる。そして高く高く、跳んだ。飛行魔法のようではなく、どちらかと言うと前に向かってジャンプしているのだが、それでも景色が目まぐるしく変わる……! 「うちの敷地は広いからねぇ~~。王都までは早くつきたかったからリラに乗ったけど、リラは早すぎるし、あまりノロノロと飛ぶのは好かないんだ。うちの中では自分で飛ぶのが一番なんだよねー!ピスィカも覚えれば簡単だよ~!」 だ、だからって……っ。しかも覚えればって……こんな超人みたいな魔法を……!? うぐ……っ。 声にならない悲鳴を喉に溜め込んだのは言うまでもない。 ※※※ 絶叫しそうで声はでない。けれど軽く恐怖を覚える魔法の旅を終えたわけだが。 「ここが本邸。普段の住居って感じかな」 ケロリと言ってのけるゼスさんなのだが……それはどう見ても、いや明らかに中世の古城のように見える。……何ここ。 「さぁ~、入って入って~~」 ゼスさんに手を引かれながら古城……いや屋敷の中に入れば、執事みたいな服のひと、メイド服を着た女性までいる。 「お帰りなさいませ、ヂェスールさま。そちらがピスィカさまで?」 真っ先に駆けてきたのは黒いスーツをビシッと着こなした……何か凄そうな男性。年齢は40歳くらいだろうか……? 「そうそう。あぁ、ピスィカ。家令のアランだよ」 家令……って。何か……偉いひとだろうか。異世界ファンタジーものでよく聞く職名である。 俺がぺこりと挨拶をすると、アランさんは驚きながらも、優しい笑みを浮かべた。 「ピスィカさまは旦那さまのご子息。使用人に礼はいりませんよ。まぁうちの放蕩旦那さまは今、どこをぷらぷらしてるやら分かりませんがね」 今さりげなく旦那さまとやらをディスらなかったか……!? 「ピスィカの声のことならオスカーに相談するから大丈夫」 「……そうでしたか。では安心ですね」 オスカーさんに相談って……俺の声のことを……か。もしもこのままの方がいいと言われたら……。いや、むしろその方が俺は……。 「オスカーさまは書斎にいらっしゃいますので、まずはそちらへ」 「そうだねぇ。ただいまいいに行かないと~!ピスィカもね」 「……っ?」 俺も……? 「ここはピスィカの家なんだから」 でも俺は平民で……ゼスさんたちとは住む世界が違うのでは。そして平民の中でも生きられない。彼らとは違う……化け物。 たとえゼスさんたちが同じく魔法を使えるとしても、平民出身の俺が、ここを家と呼んでも許されるのだろうか。 現実は……物語のチート主人公のようにはいかないのだから。 「ここがオスカーの書斎だよ~」 ゼスさんに案内されてやってきたのは、細かな意匠が刻まれた、明らかに凄そうな扉の前……! 「緊張しないで。オスカーは……結構なイケメン!」 それでどうやって緊張を解せと……!? 「さぁ、オスカー!たっだいまぁ~!ピスィカ連れて帰ってきたよ~~!」 しかし間髪入れず、ゼスさんが扉を開いてしまう。 「このバカ弟が!王都の魔法結界を何だと思っている!!」 そして扉を開くなり怒号と共に何かが飛んできた!?まぁ、ゼスさんが華麗にぱしゅっとキャッチしてくれたので、当たりはしなかったけれど……。 しかも何なのか分からない異世界珍金属っぽい延べ棒っぽい何か……! 「危ないなぁ、んもぅ。ピスィカに当たったらどうすんの」 「心配するな。お前に直撃するように魔法を組み込んだ」 ゼスさんの言葉に悠然と答えるのは、書斎の奥で椅子から立ち上がりこちらを見つめる……確かにイケメンだ。でもだからと言って緊張が解れる分けではない。纏っているいかにもな高貴なオーラに、逆に緊張するんだが……!?
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加