【7】学校生活。

1/1
前へ
/20ページ
次へ

【7】学校生活。

――――――しまった……。無事に登校したとはいえ、ハヤトとツェリンとはぐれてしまったばかりに……。 「なぁ、お前」 いかにもな貴族の子弟たちに絡まれてしまった。そっとしておいてくれればいいのに……。しかしむやみやたらに声を出して怪我でもさせたら、チェルナマチカの家に迷惑がかかるかもしれないのだ。 「どこの貴族?それとも平民?」 貴族の子弟たちがニヤニヤしながら問うてくる。 平民の魔法使いなんて……ほぼいないだろうに。いや、俺がいるか。 「おい、何とか言え……」 ひとりが胸ぐらを掴んでくる。な……殴られ……っ!? 「ちょっと、君たち……何してるの」 俺の胸ぐらを掴んだ貴族の学生の手に触れたのは……。 「フェル……さん」 「……お兄ちゃん」 「……フェル兄さん?」 「ん」 最近は兄弟をそう呼ぶようになった。学校ではどうなのだろうとも思っていたが……それでいいらしい。いや……そう言えばハヤトは学校でも俺を『兄さん』って呼んでくれるから……。ダメではないか。 「うるせぇよ!お前ら!」 「おい、待て。こいつ先輩だぞ?」 生きのいい貴族の子息がさらにヒートアップするのを、周りがとめようとする。 「ふんっ!知るか……!俺にはこの学校の裏ボスがついてんだからな……!おい、こっちこいよ!」 ふえぇぇ~~っ!? 裏ボスって何!?そしてフェル兄さんと……連れて来られてしまった……。人気のない場所に……。 そして子息が魔法端末を操る。 「へへへ。これで先輩に連絡すれば、すぐに裏ボスを呼んでくれるぜ!お前ら2人とも、思い知らせてやる……!」 何をだ……ほんとに。 「あの……フェル兄さん」 「……裏ボスって誰のことだろ」 こてんと首を傾げる。いやその、前々からのほほんとしてるひとだとは思っていたけど……!そこなのか!?今気になるのはそこなのか……!? 「ふん……覚悟しろ……!」 貴族の子息が指をパキポキ鳴らしながらこちらに迫ってくる。どうしよう……フェル兄さんを巻き込んだのは俺だし……俺がフェル兄さんを守らなきゃ……っ!お……俺にできることなんて……。あ、魔法……。 ここは人気がないし、そもそもフェル兄さんを守らなきゃ……。 今までで一番発動が軽かったものなら、少しだけなら……! 『ヴィハール、ヨッテ……ヴィハール』 「あ、ピスィカ。それはやめたほうが……」 「え……っ?」 フェル兄さんの声に気が付いた時、既に遅し。 周囲に轟音が響き渡り、風が渦巻く……! 「ひゃ……っ!?」 『ぎゃあぁぁぁぁ――――――――っ!?』 あ……ダメだ……。 子息たちは鋭い風の……いや竜巻のような風の猛攻を受け、悲鳴をあげている。 ――――またやってしまった……。でも前は、鋭い風がヒュゥヒュウと吹いて駆けただけで……。せいぜい襲ってきた従弟の頬を傷付けてしまっただけなのに……。それでも従弟は恐怖し泣き叫び、襲われそうになった俺が怒られるだけ。こんな風にはならなかったはずなのに。 「しょうがないか……『ヒュゴーレ(鎮まれ)』」 そうフェル兄さんが告げたとたん、ふわりと風がほどけて、子息たちが地面にぐったりと転がる。 「あ……その……」 「……別に、ピスィカは悪くない。こいつらがチェルナマチカをナメただけ」 「そうは言っても……また、やっちゃったから」 「また……?」 「でも、前はこんな風にならなくて……」 「……魔法は、使おうとする意思にもよって、強さが変わる。特に……チェルナマチカの魔法の言葉はそれで変化する」 ――――え。それって……。あの時はとにかく助かりたいと思っただけで、魔法を使おうとする意思はなかった。でも今回は、意図的に使おうとしたから……っ。 「手当てを……っ」 「ピスィカは優しいね」 「……えっ?」 どうしてかその時のフェル兄さんの表情が気になった。優しいのは……フェル兄さんや、みんなでは……。俺は……過去に声を封じた原因を、意図的に使おうとして……使ったのに。 そして、その時だった。 「おい、後輩。何だよ呼び出しやがって……!今の魔法何だよ!」 暫くするとガラの悪そうな集団がやってきた。彼らが……裏ボスに通じる先輩? 「先輩いぃっ!!こいつ生意気で……!俺たちをこんな、ふうに……!!裏ボスに頼んで絞めさせてくれよおぉぉっ!」 リーダー格が歯を食い縛りながら叫ぶ。 「ほら、平気そう」 あれ平気そうって言いません!フェル兄さん……! 「あぁん?生意気な……」 強面な先輩がこちらを見て……絶句している……?何故……。 「ねぇ、裏ボスって誰?」 フェル兄さん……!?怖そうな先輩なのにいきなり話し掛けるって……まさか知り合いじゃないよね……?知り合いでも……俺なら恐いんだけど。 「おら、お前……!先輩が来た以上、なめた口利くんじゃ……っ」 そう貴族の子息が意気がった時だった。 「なめた口利いてんのはてめぇだろ……っ!」 先輩が子息の腕を勢いよく引っ張る。 「ね、誰?」 「……知らん」 先輩はそう言うと……仲間とともに意気がっていた子息たちを引きずり去っていった。 「……何、だったの?」 「……さぁ……?」 フェル兄さん……相変わらずおっとりしてるんだから……。 「おーい、兄さん!」 「フェルさんまで……!ご一緒で良かったです!」 「ん、ハヤトとツェリンも来たんだ」 フェル兄さんが頷く。 「兄さんったら、目を離したとたん迷子になるんだから」 「あぅ……ごめん。フェル兄さんも……絡まれたの……俺で」 「……気にしなくていい」 「絡まれた……?兄さんに絡むなんて許せない」 「ほんとそう言うの勘弁して欲しいです!」 ツェリンもぷんすかと怒ってくれる。 「それにフェル兄さんにって……何考えてるんだか」 ハヤトがにぱにぱと笑う。それってどういう意味なんだろう……? 「ん……大丈夫。あとは俺がやっとく……」 そう言うとフェル兄さんはふわりと身を翻して行ってしまう。 「……あの……っ」 「へーき、へーき。フェル兄さんは……んー……いや、ぼくたちと同じチェルナマチカだもの。強いよ」 その……ほかの兄さんたちと同じなら……大丈夫だよね。でも……あの強面の先輩たちと知り合いっぽかったのは……やっぱり気になった。 ――――とはいえ、その後すぐにオスカー兄さんに呼び出しを受けた。そしてその場にはフェル兄さんもいて……。 「ご……ごめんなさい」 「いや……、元々はチェルナマチカをナメてかかる方がどうかしてるな」 それ、フェル兄さんも言ってた……? 「フェルもついていたのだから良かったが……しかし、今後もハヤトとはぐれた時が心配だ。だが……ナメられたら徹底的にもうちの家訓でな」 か、家訓なの……!? 「うちの放蕩親父など、校舎ごと破壊したと聞く」 うぅ……俺の本当の父親……一体どんなひと……!? 「その時はさすがに王宮からも怒られたそうだが……」 そりゃぁそうだろうに。 「そこまでではなければ、大体チェルナマチカだからでカタがつく。我らをナメるのが悪い」 ひえぇっ!? 「だがもしもの時は……私たちを頼りなさい。フェルもピスィカのためなら遠慮するな」 「分かった。オスカー兄さん」 え、遠慮するなって何をだろうか。 「ちょっと、オスカー兄さん。ピスィカ兄さん、まだー?」 ちょうどその時、ハヤトがオスカー兄さんの研修室の中を覗いてきた。 「あぁ、構わないぞ」 オスカー兄さんがそう言うと、早速ハヤトが部屋に入ってきて、次の授業に行こうと誘ってくれる。そして外にはツェリンも待っていてくれて……。 「ごめん、待たせた?」 「いえいえ、何のその!私も授業サボれて何よりです……!」 「え……それはまずいんじゃ……」 「そうだな。、理事長に言っておく」 あ、オスカー兄さんもフェル兄さんといつの間にかこちらに来ていた……!? 「ひぇ――――――っ!?やめてくださいそれだけはぁ~~~~っ!」 平穏が戻った校内に、ツェリンの絶叫がこだました。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加