コールドスリープ

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 ワンっ!と元気よく吠えていた犬のジョーはもういない。そう思うと、だいぶ時間の経過を痛感させられた。  今も尚、眠り続ける母の姿はあの日から一ミリも変わっていない。ただ変わったのは、私が年老いたことと隣にいたジョーがもう天国に旅立ってしまったということだ。  コールドスリープというのが、実際に存在するとは思わなかった。あれは、漫画やドラマなどの娯楽の世界にしか存在しない装置で、現実世界には存在しないもの。もし存在しても、まさか病気を治すための装置だとは誰も思わないだろう。  2060年になったばかりの世界では、母が生まれた時とは全く違う近未来の世界が存在した。日本の首都である東京は、ビルが母の時とは比べ物にならないほど建てられ、そのおかげでヒートアイランド現象が加速している。空飛ぶ車とかは無いけれど、自動車は全て自動運転だし、事故が無い平和な世界になっているのは確かだ。  そして母の時とは違うのがもう一つ。この世界に、病気療養としてコールドスリープが導入されたことだ。  母の時から、コールドスリープという単語はあったらしい。ただ、それは病気療養に使われる装置ではなく、宇宙船での惑星間移動などにおいて、人体を低温に保ち、目的地に着くまでの時間経過による搭乗員の老化を防ぐ装置だった。だが、これが病気療養に使うことが出来ると、医師団体が発表したそうで、2040年になって、やっと導入された。そしてそれから20年が経ち、コールドスリープは日常的に利用されている。  このコールドスリープがなぜ病気療養に役立つかと言うと、それは人体を低温に保ち、老化を防ぐことで、病気の進行を遅らせ、そして病気の治療薬がある時代まで保存することが出来るからだ。コールドスリープを利用すれば、死の病と言える物ですらも、治療薬であっという間に治ってしまう。だけれど、その分リスクもある。
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