謎の男

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 ——ダメで元々だろ。やるだけやってみれば?  人の気も知らないで——いや、知っている上でわざとそうしているのか、あっけらかんと宣うあいつに、カッとなる。  「馬鹿言うな! 他人事だと思って——」  「千鶴(ちずる)ー? 騒がしいけどどうしたの? ゴキブリでも出たのー?」  心配そうなお母さんの声に、ハッと我に帰る。  慌てて「何でもなーい!」と返すと「そう。ならいいんだけど」と興味をなくした気配がして、胸を撫で下ろす。  「……冗談じゃない。精神科になんて、絶対に行かないんだから」  ——頑なだな。じゃあずっとこのままでいいのか? 一生俺と一緒にいたい、って受け取っていいのか?  「……死んじまえ。マジで」  これ以上対話を続けることが辛くなり、急いで服を着て2階にある自分の部屋に行き、布団をひっ被った。
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