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驚きのあまり、声すら出なかった。今のは何だったのか。空耳? ひょっとしてまだ夢の中にいるのかな……と首を傾げていると、再びあの声が聞こえた。
——ベッドに戻れ。
私が意を汲んでくれないことに対して、怒っているような声色だった。
怒られることに耐性がない私は、脊髄反射的に言う通りにした。
あたたかい寝床に戻るとすぐに心地よい眠気に襲われた。
ああ、きっと寝ぼけてたんだな——。
そんな結論を最後に、そのまま深い眠りに入っていった。
次に目を覚ましたのは、正午を過ぎてからだ。
また自分のうめき声で目が覚めた。どうも今日は夢見が悪いな、と眉を顰める。冬なのに寝汗もかいていたし……目覚めの気分は最悪だった。
冬休みとはいえ、ここまでグッスリ眠りこけるなんて……と損した気分で着替えに取り掛かる。
しかし、着替えようとしている手が、私の意思に反して急に止まった。
何なの、これは。体が動かないんだけど。
まるで自分の体じゃないみたい。動かし方を忘れてしまったかのように、手足がびくともしない。
何が何だかわからず、ただただ困惑していると、あの声がした。
——よっ! おはよう。
「あっ……! その声は……夢で聞いたのと同じ声っ!」
——夢じゃねーよ。俺は確かにお前の中にいるんだ。勝手になかったことにするんじゃねぇ。
狐につままれた気分だった。頭の中に知らない人間がいて、喋っている。こんな不可思議が、現実のものとはどうしても思えなかった。
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