出現

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 ——やめられるわけないだろ。  その声に滲む力強さに、鳥肌が立つ。  絶対に解放してやらない、という決意が、短い言葉の一音一音から感じ取れた。  ——お前だけの体じゃねえんだ。そろそろ代われよ。  「そんなこと言われたって……私にはまったく身に覚えがないんだよ? あんたを——もう一つの人格を望んだことなんて、一度もない」  なのに急に現れて、今日からよろしく、体を共用しような、などと言われても、受け入れられるわけがない。  ——ふざけんなよ。甘くしてればつけ上がりやがって。いいからさっさと寄越せってんだよ。  ドスの効いた低い男の声に怯む。  どこか切実さを感じさせる声だった。  ——今、お前の体の自由を奪っているのは俺だってことを、忘れるなよ。  今の俺は、お前に対してどんな危害も加えられるんだからな。  そんな副音声が聞こえてくるようだった。  私は、咄嗟に下にいる家族に助けを求めようと大きく息を吸い込む。  しかし、さっきまで難なく出せていた声が、どうしても出てこない。  発声の自由すら奪われたのか。顔がみるみる青ざめていくのがわかる。  自分の体が思うようにならないということが、これほど恐ろしいとは思わなかった。
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