謎の男

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謎の男

 もうすぐあいつが来る——。  時計を見ると、22時だった。  心臓がバクバク鳴り、冷や汗が次から次へと湧き出て、首筋や頬をつたう。  ああ、嫌だ嫌だ嫌だ。来ないで。もうやめて。あんたのせいで夜になるのが怖い。今日は大丈夫かな? なんて期待しても、あんたは律儀に毎晩毎晩やって来る。  心の中で悪態をついていると、次第に私の手足が意思に反して勝手に動き出す。リビングのソファーに座っていたのが、自然にお風呂場へ向かって歩き出している。  顔を思い切り歪ませる。あんたが来ると、いつもこうなる。私の自由は奪われて、あんたの意のままに行動するしかなくなる。私にはあんたに逆らうことが、どうしてもできない。  私はこの行為の間、物言わぬ人形も同然だった。私は毎晩ラブドールにされる。この世で最も憎い男に。
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