同級生の男子

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 ——浮かない顔してんな。  ふいに件の人物に話しかけられ、飛び上がる。  「なっ……! 何でいるの!」  ——随分なご挨拶だな。別にいいだろ。  「いいわけないでしょ!」  ——朝からうるさい声出してないで、支度しろよ。遅刻すんぞ。  時計を見ると、そろそろ出なければいけない時間になっていた。慌てて髪を整え、ジャケットを羽織り、スラックスを履く。最後にネクタイを結べば、身支度完了だ。  ——おいっ! 薬飲み忘れるなよ。  部屋を出ようとしたところを、咎められる。  危うく花粉症の薬を飲み忘れるところだった。本当は食後に飲まないと駄目なのだが、朝食を食べる時間がない。  鮮やかなピンク色の錠剤を慣れたように飲み干し、階段をバタバタと下りる。  「ごめーん! 今日朝ごはんいらなーい!」  リビングを覗き込むと、「千鶴っ、ちょっと待ちなさい」とお母さんが呼び止めてきた。  「何? 急いでるんだけど」  「これ、お父さんから」  指し示されたテーブルを見ると、そこには抜き身の一万円札が置いてあった。  「また? いや助かるけどさ。お父さん最近、羽ぶり良すぎじゃない?」  今年に入った頃から、お父さんからのお小遣い、と言って、一万円札を渡される機会が増えた。お父さんは仕事に忙殺されているので、直接渡される機会は少ない。  他にもお父さんから、と言ってお菓子を渡されることが増えた。長女が遠方へ旅立ったことをきっかけに、二人目の子供である私を慈しむ気持ちが強まっているのかもしれない。お母さんとの会話だって増えたし、二人の中で私への関心が高まっているみたいだ。  私としては両親からの愛を感じられて、非常に幸せだ。二人が私を思ってくれているだけで、羽が生えて空も飛べるような気がする。
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